田舎弁護士日記(その6)

 面白いもので、似たような事件がいくつもくることがある。

 2年前は、軽微な追突事故の事件が4件も立て続けに来た。信号待ちで停車中、オートマ車のブレーキペダルを外してしまい、クリーピングして追突したという事故である。ところが、追突された被害者は鞭打ちが中々治らないのに、保険会社は、客観的所見のない軽微な交通事故というカテゴリーを勝手に作って、3ヶ月で治療費の支払を打ち切ってしまう。エックス線写真でもMRIでも所見がないのだから、3ヶ月で治るはずだというのである。被害者はつらいから病院に通ってリハビリをしているのに、保険会社の担当職員からは詐病扱いをされてしまう。

 そればかりか、任意保険なのに、自賠責の範囲内でしか支払わないというケースもある。ひどいケースでは、任意保険の一括支払よりも、自賠責の請求をした方が支給金額が多くなることがある。こうなってくると、何のための任意保険かと腹立たしくなる。

 もっとひどいのになってくると、大切に大切に乗っていた新車なのに後ろから追突されて愛車を傷つけられ、本人も鞭打ち症で苦しんでいるのに、事故から1ヶ月も経たないのに、保険会社から債務不存在確認訴訟を提起されたケースもある。被害者なのに、加害者扱いである。

 このような保険会社というのは、いたって特定の保険会社が多い。そのような保険会社の心無い対応で、かえって被害者の病状は悪化する。医原病ならぬ、保険会社原病である(※)。

 こんな交通事故の紛争は、昭和40年から50年でほぼ収束したと聞いていたのに、保険会社は依然としてこんな被害者泣かせのことをしているのである。保険会社(共済事業を行っている団体を含む)は、もっと保険会社としての社会的責任を自覚して欲しいものだ。

 最近増えているのは、世相を反映して、破産と離婚である。自己破産の申立の依頼も多ければ、破産管財事件も急増している。サラ金からの借金を原因とする消費者破産も多いが、事業者破産も増えている。統計どおりの事件状況である。

業種としては、何故か私が最近関わったものは、鉄工所の事件が多い。住宅不況のあおりからか、鉄工所といっても、建築鋼材を加工する程度のものである。

  昨年暮あたりから、破産をしながら夜逃げをする人が急増している。以前は、夜逃げをする人は夜逃げだけ、破産をする人はそのまま自宅に居住するというふうに区分けされていたように思うのだが、最近は、私が関わったケースはすべて破産+夜逃げである。近所からも借金をしまくったり、あるいは取立ての厳しい債権者がいることが原因のようだ。以前は取立てが厳しいといえばヤクザ関連の債権者だったが、最近は、「ヤクザからの借金で取立てが厳しい所があるか」と債務者に聞くと、「日栄」と答えるケースが多い(別に日栄がヤクザだというのではありません)。

 この夏、高浜町の破産管財事件を受任した。高浜町といえば、海水浴場で有名であり、京阪神から多くの海水浴客が集まる所だ。私も、小学生のとき、臨海学校で訪れたことがある(小学校は京都だった)。高浜町は、福井県であるとはいっても、福井からは2時間半はかかり、リース物件の引き上げの立会をするにしても、一日仕事だ。

 受任のときは、海水浴がてらにいいなと思っていたが、そんな余裕は全くない。一応、 気持ちばかりに海パンは自動車に積んでいくが、取り出す時間もなく、帰り道を急ぐことになる。

 コンビニを経営していた会社なので、夏場で商品が腐るといけないからと、商品の処分に奔走し、次は、不動産会社も経営していたから、その不動産の処分に、国税や銀行との交渉に奔走する。

 破産管財事件の面白味は、その商売ごっこができることだろうか。前は、醤油屋さんや、漆器屋さんや、家具屋さんをやった。今は、不動産屋である。

 海水浴客を尻目に、今日も、高浜に向かう。海に沈む夕陽がきれいだ。

     98年8月9日記

(※私が体験した特定の保険会社の社名を挙げておいたところ、クレームがついたので、社名は掲げないことにしました。しかしながら、同じような体験を持っているのは私一人ではなく、他の弁護士も体験しています。あまりにその保険会社の金払いが悪いので、その弁護士は保険金支払仮払の仮処分を申請し、裁判所に認められた事もあります。私としては、保険会社は、単なる私的利益団体ではなく、公益性のある事業を営む団体なのであるから、事実を記載している限り、名誉毀損の違法性は阻却されるものと信じていますが、当該保険会社の今後の事業姿勢を見守るために、当分の間、社名を掲げないことにしました。00年8月14日)