田舎弁護士日記(その7)

 98年11月17日、獅子座流星群とやらが見える日。ところが、福井では、冬入りしたようで、朝から悪天候。午後から福井拘置所で、臨床尋問。これは、大阪府警に現行犯逮捕されたとき、そしてその後の警察署留置場で警察官から暴行を受けたとして、現在福井拘置所に未決勾留中の被告人が大阪府を相手取って損害賠償請求を提起した事件だ。今日は、その原告本人尋問である。拘置所の中の会議室に、仮法廷を造り、尋問する。受命

裁判官に書記官、それに被告代理人に、私。なかなか様になっている。尋問中に、日が射してきた。午後4時過ぎに尋問を終わって、外に出ると、晴れている。これは今日は福井でも流星のショーが見れるぞ。

 ところが、夕方、債務超過に陥っている会社をどうやって再建するか、和議なり会社整理なりの法的手続きをとるか、それとも従業員を主体として新会社を発足させるか、2時間以上かけて打ち合わせをする。その頃には、窓を激しく叩くみぞれの音!さっきまで晴れてたのに!

 その後、午後8時から、外科医の先生から、死体の創傷についてのレクチャーを受けに行く。殺人事件の死体解剖の写真の検討のためだ。被告人および弁護人は、被害者を殺害していないと無罪を争っているのに、何と、死体解剖書が出てこない!検察官は、死体解剖書の代わりに、死体解剖の時に立ち会った警察官が撮影した写真を証拠として提出するという。その警察官の尋問のための準備だ。それにしても、有罪を争っている事件で、死体解剖をした法医学者の鑑定書が出てこないというのは、一体どういうことか!客観的に死因を特定することすらできないし、殺害方法すら分からないじゃないか。そうなると、被告人としては、防御をすることもできない。外科医のレクチャーが終わったのは、午後9時半過ぎ。雨は上がっているが、曇り空で、寒風が肌を刺す。この状態では、明け方は期待できそうにないか?

 とにかく、2時から4時がピークだとの情報から、早く寝て2時に起きることにする。

 宣言通り、2時に起床。しかし、外は曇り。余所が晴れているなら、車で余所に移動しようかと思い、気象情報を電話で聞くが、山間部は雪とのことで、これは岐阜や愛知に移動することも困難だ。

 再び2時30分頃、外に出ると、北東の空が晴れている!いったい、獅子座ってどこ?北斗七星の柄杓部分を見ていると、な、何と、流星が!5分ほどして、再び、今度は柄のところに!獅子座って、北斗七星のことかな?もう1個、今度はちょうど真上を見上げていたら、飛んだ!でも、その後、雨。福井って最低!このときほど、福井に来たことを後悔したことはない。

 しかし、今は、冬の福井の天気。冬の北陸は、めまぐるしく変わるもの。乙女心の比じゃない。きっと、晴れる。そう意を決して、今度は車に乗り込んで、団地のはずれ、田圃の中に車を止めて、雨が上がるのを待つ。さすが、土地改良を済ませた田圃は周囲360度遮るものはない。でも、その分、風がきつい。

 さーっと雨が降ったり、上がったり。3時10分過ぎ、雨が上がり、北の空が一部晴れ間が見えた。見ていると、福井新港の送電塔付近めがけて流れる流星が!良く分かんないが、あれはカシオペヤ?今度は、軌跡を残して大きなのが流れた!3時20分頃、ようやく天頂部に晴れ間が見えてきた。見上げていると、飛んだ!おお、さすが福井。雨が降ってても、空は晴れる。良いところだねえ。

 ようやく夜空に目が慣れてきた。南の空にはオリオン座。真ん中の三ツ星まで見える。その右手を伸ばすと、あれはプレアデス?僕の視力でもおぼろげに見える。その他に名前も知らない多くの星。京都や東京で見た夜空とは全然違うね。そういうと、中学校2年生のとき、修学旅行で九州に行き、帰りは瀬戸内海を船で帰った。甲板に毛布を出して、友人(男子校だから当然男。悲しい〜)と二人で夜空を見ていたら、いくつもの流れ星が飛んでいた。星が降る感じだったのを憶えている。そんなことを思い出しがら、北側の空を見ていると、また北の海の向こうに落ちて行くのが見えた!カシオペヤらしきものの背中を通って。

 4時過ぎ、天頂部に大きく、軌跡を残しながら流星が飛んだ!どこからか、喝采が聞こえる。

 4時20分には、また雨。今度は、今までと違って、雨足が重い。もうだめかな。観測中止。

 余所ではよく見えたのかな。福井の澄んだ空でこの程度だから、やはり今回の天文ショーは不発かな。これからまた寝ることにしよう。おやすみ。

   98年11月18日午前5時記