小規模弁護士会と司法改革

一、はじめに

 私が東京弁護士会から福井弁護士会に登録換えをして 早くも二年になる。いまだによく言われる、「どうして福井なんかに越してこられたのですか。お生まれが福井なのですか」と。私はこの質問が大嫌いだ、「どうして裁判官にならなかったのですか」という質問の次に。

 永尾廣久会員(福岡県弁護士会)の「青年弁護士は田舎をめざせ」(「自由と正義」四八巻一号二九頁)が小規模会の弁護士生活の楽しさを伝えているとおり、私は、福井で大変充実した生活を過ごしている。地方では、箱物も充実し、さまざまな文化施設が建築され、東京にいたときには行く暇もなければチケットもとれなかったコンサートに家族連れで行く余裕もできている。今では、どうしていまだに東京であくせく業務を続ける弁護士がいるのだろうと不思議に思うほどである。

二、小規模会と司法改革 課題の見えにくさ

 以前、私は「司法改革推進センターニュースbV」(平成八年一一月二〇日号)に『小単位会の活動ー司法改革は日常業務の中に』と題する小論稿を発表させていただいたことがある。その中で、私は、次のように述べた。

「地方小単位会と大単位会とでは司法改革の重点が違うのではないだろうか。地方会では司法改革は日常の訴訟実務の中にある。福井では、裁判官は地家裁本庁に七名(所長を含む)、武生・敦賀支部に各一名しかいない。それに対し弁護士は三五名であるから、日常的に裁判官と弁護士は接することになる。一審強化協議会や懇親会等でも顔を合わす。裁判官も弁護士もお互いの「顔」・個性が見える。それだけに、裁判官は弁護士の協力が得られなければ訴訟運営を行うことができない。そこに、弁護士が日常の訴訟実務の努力の中で、裁判所の訴訟運営を改善させ、裁判官の姿勢を変えていくことができるのである。それが裁判所・司法を変えていく力になっていく。(略)いわば大規模庁でついた裁判官の垢を地方会の弁護士ともみ合う中で洗い落としてもらうのが、地方会における司法改革ではないだろうか。(略)地方会には地方会独自の司法改革の課題がある。地方会では日常業務の中に司法改革がある。」

 当時、私は東京弁護士会から福井弁護士会に登録換えをしたばかりの時期であったが、その後二年近く福井弁護士会での職務経験を経て、私の司法改革に対する感想は、変わるどころか、一層強くなってきた。 

 その原因の一つに、日弁連司法改革推進センターの取り上げる「法曹一元と陪参審」の課題の見えにくさがある。日弁連司法改革推進センターの一委員でもある立場でこのようなことを述べるのもいかがなものかと思われるが、あえて一言させていただくならば、日常業務を行う中で、司法改革の目的である「法曹一元と陪参審」といってみても、はっきりいって、ピンと来ない。日常業務との関連性が見えないからである。大多数の小規模会の会員にとっては、そうではなかろうか。私にとっても

、「法曹一元と陪参審」を考えるのは、片道四時間近くかけて東京に出たときだけ、要するに日常業務から解放されたときだけである。

 「市民のための司法改革」であるためには、「市民に分かりやすい司法改革」でなければならない。そして、「市民に分かりやすい司法改革」であるためには、まず「会員に分かりやすい司法改革」でなければならない。

 しかし、現在の司法改革推進センターの課題である「法曹一元と陪参審」は、日常業務との関連性も薄く、近い将来に実現できる見通しも必ずしも明瞭ではなく、会員にとって分かり難い。

 会員に分かりやすい司法改革とは何か。特に、小規模会の会員にとって分かりやすい司法改革とは何か。

三、執務環境 

  私の所属する福井弁護士会は、平成九年五月から施行された日弁連の小規模弁護士会助成制度(注1)による助成金の支給を受ける小規模弁護士会に該当する。まず、当会の(というより私の)実状を簡単に描写しておく。

 福井県は人口約八三万人、県庁所在地福井市は人口約二五万人の中都市である。それに対し、弁護士は、会員数三四名であり、そのうち三二名が福井市、一名が敦賀市、一名が小浜市に事務所を有している。構成は、二〇期前が八人、二一期〜三〇期が八人、三一期〜四〇期が一五人、四一期以降が三人という、若い会である。この四月には新人会員が三人入会する予定である。昭和六二年の登録会員数は二九名であるから、一〇年間で一七%増ということになる。

 また、福井県内には、福井地家裁本庁(所長を含めて裁判官は七人)、武生支部(支部長一名)、敦賀支部(支部長一名)、福井簡裁(裁判官二名)、武生簡裁(裁判官一名)、大野簡裁(裁判官非常勤)、敦賀簡裁(裁判官一名)、小浜簡裁(裁判官非常勤)がある。地家裁大野支部、小浜支部は、先の地家裁支部統廃合で廃止された。

 事件数は、平成八年度で地裁民事通常事件の新受件数四六九件、破産申立件数三七五件、地裁刑事通常事件の新受件数二八三件、簡裁民事事件の新受件数六六五件、簡裁刑事事件の新受件数一〇〇件(略式命令を除く)である。大都市に比べると、事件数は極めて少ないといえよう。

  少ない会員で会務を行うから、基本的に執行部は持ち回り、委員会活動は兼務である。ちなみに、私は、法制取調委員(司法問題・民事訴訟法改正・法制委員会を合体したような委員会)・公害対策委員、一審強化対策委員、消費者問題対策委員・刑法少年問題対策委員、弁護士業務対策委員・綱紀委員会を兼務している。委員会活動は、大体昼休みに食事をとりながら入れるから、会議時間はいきおい正味四〇分程度となるから、ペーパーを用意しての時間をとっての議論はなかなか困難である。

職住接近で、事務所に着くのは午前八時三〇分頃、一〇時の法廷が始まる前に一仕事できる余裕がある。夕方は午後七時三〇分頃まで仕事をしても、八時前には自宅で食事ができる。通常の事件単価は三〇〜五〇万円が普通で、訴額が一〇〇万円以下の事件も多いから、着手金は一〇万円程度というのもざらにある。必然的に事件数が多くなる。もっとも、私の手持ち事件は、民事の訴訟外事件が八件、サラ金破産・整理事件が五件、、訴訟事件が二一件、刑事事件が四件、集団訴訟が二件、その他に、破産管財事件が個人四件、法人が四件(うち一件は常置代理人)、相続財産管理事件が一件、国選弁護事件は常時一件程度であるから、比較的少ない方であろう。しかし、手持ち事件全部につき改正民事訴訟法にしたがって期日の事前準備をすることは不可能に近い。

四、司法改革とは何か

1 改正民事訴訟実務の適正な定着

 司法改革は、司法の民主化を目的とするものであり、具体的には法曹一元と陪参審の実現を目指すものである。しかし、司法改革は、何よりもまず、市民の権利が迅速に実現される、市民に納得のいく裁判の実現でなければならない。まず自らの努力でできる範囲のことは行うべきである。

 そこで、福井弁護士会では、平成八年度から、改正民事訴訟法を単に当事者の負担強化によって裁判所の負担を軽減するものに堕させないように、民事訴訟実務の改善を通して、結果の見える司法改革をめざした。日弁連民訴法改正問題委員会「新民訴法下における実務と協議課題」に基づいて、繰り返し弁護士会の全員協議会を開催して勉強会を行い、裁判所との協議でも、弁護士会から積極的にテーマとそれに関する弁護士会の見解を提示して、議論を行った。

 

 しかし、民事訴訟実務の改善だけでは限界がある。たとえば、福井でもかつてから裁判官に対する不満が強い。民事訴訟実務の改善が市民のためになるかどうかは、裁判官の姿勢によって決まる。つきつめて考えれば、それは最高裁に対する不満であろう。少年法の改正問題に関して裁量合議制について委員会で討論していたときに、新任明けの未特例判事補に少年審判を行わせるべきではない、練達の判事に少年審判は運営させるべきだ、いや未特例判事補の方が体当たりで少年事件に向かってくれるからいいという議論の後に、そもそも少年の側に審判官を選択する権利を認めるべきだという冗談混じりの意見が出た。結局は、裁判官の問題に帰着するのである。

 福井でも、「あの先輩弁護士が裁判官になってくれるのであれば、大いに裁判は変わるだろう」と思うが、今の最高裁が任命するはずもない。問題はその風穴をどこに開けていけるかである。そこに、司法改革の問題が始まる。

2 行政改革としての情報公開条例・市民オンブズマン

 司法改革は、司法の民主化を目的とするものであるが、それは政治・行政・社会の民主化を抜きにしてありえない。日本の裁判所がキャリアシステムなのは、何も裁判所特有のことではない。日本の行政そのものが中央省庁から地方自治体に至るまでキャリアシステムであり、市民を見るのではなく、上を見て行われている。裁判所のキャリアシステムは、その延長線上にある。

(1)地方行政の実態

 たとえば、福井でも、県庁に勤めるのがエリートで、それがだめなら市役所、それもだめなら町役場、村役場という序列ができているように思える。それに応じて、行政のシステムも、分からないことがあれば、県庁に伺いを立てるという形で行われる。

 先日、面白い話があった。私の住んでいる地区(「区」と いう行政の最小単位であり、区長を選出すると、町役場に届け出ることになっており、町の広報を配布したり、公職選挙の際には投票用紙を各戸に配布したりする。区の総会には、地元選出の町会議員が挨拶に来る。)に公民館を建てることになった。町役場との交渉では、補助金が出ることになっていたが、県の補助金に町が上乗せをするような扱いになっていたらしく、県が補助金を交付しないことになって、町も補助金を交付しないということになった。これまで補助金が交付されるという前提で事業計画を進めていた区執行部としては、話が違うとばかりに、町役場では埒があかないから県庁に事情を聞きに行った。そうしたところ、県では町に話を聞けと言って区執行部を帰した。ところが、区執行部が帰宅すると(県庁からは二〇分もかからないのに)、どうやら早速町役場の担当者に県庁から電話があったらしく、町役場の担当者が自宅に来ていて、町のメンツもあるから、直接県と交渉しないでくれと言われたという。町役場と県庁の上下関係、そして地方自治体における行政のあり方を象徴的に表している出来事だと思う。県庁への直接のクレームは、行政のおきて破りの「直訴」なのだろう。

 また、地方ならではの、田圃の土地改良に関連する事件があった。県営の土地改良事業なのに、実質は「区」ごとに換地委員会が組織され、委員だけが優良地を換地されるような換地計画が作成されたのに、県はその内容には関与しないという。行政不服審査法上の異議申立はしたものの、実際はそこで白黒つけるのではなく、下方で交渉し、異議申立を取り下げることによって実質的に換地計画を変更させた。異議申立、審査請求ではおそらく換地計画を変更させることはできなかっただろう。

 県や市等の行政に対して質問しても、根拠を示して説明してくれないという相談が多い。そこで、行政庁に対して質問書を内容証明にして送付する。

 未だに、道路拡幅工事等による土地の任意買収の際には、契約書の署名は、予め土木事務所の職員が親切にも代理署名し、押印も、印影が不鮮明ではいけないと、土木事務所の職員が代印するということがある。しかも、土木事務所長の印を後に押印するからということで、被買収者にはその場で写しを交付しないから、被買収者は契約書を一度も目にしなかった。それでも大抵の場合は問題が生じないが、買収金額をめぐって争いになっている事案がある。このような契約手法は、現在ではサラ金や街金ですらしない。

 冒頭で述べた、「どうして福井なんかに」という言葉を地元の人が使うのは、このような行政のあり方を自嘲しているのかもしれない。

このような行政の上に、司法が成り立っている。

(2)民間の動きを行政へ

 一昔前までは、民間も、終身雇用の年功序列制の下で、キャリアシステムと同様であったが、最近では、国際競争や長期不況の下で雇用形態が多様化して、能力主義、年俸制、中途採用が増え、行政同様のキャリアシステムが崩壊しつつある。そのキーワードは、環境の急変に対応できる多様性の確保である。行政のキャリアシステムも、官僚批判が絶えることなく続けられている。

 司法改革は、民間で始まっているキャリアシステムの改革=多様性の確保の動きを行政に伝え、さらに司法に及ぼすことである。

 行政におけるキャリアシステムの改革の方策は、官僚の持つ裁量権限の縮小であり、情報公開による行政の透明化であり、民間との交流である。そうすることによって、キャリアの視点を市民に向けさせることである。そのためには、地方分権が不可欠である。

 しかし、地方分権の受け皿である地方自治体自体が、前述したような不透明不合理な行政を行っているのでは話にならない。そこで、情報公開を軸とした市民の行政参加が不可欠となる。

そのためには、各自治体に情報公開条例を制定させ、既に情報公開条例のある自治体ではその改善を求めていくことが不可欠である。

(3)福井市情報公開条例・市民オンブズマン

 福井市では、平成九年四月に情報公開条例が制定された。条例制定に当たっては、市民からの公募委員も含めた情報公開制度懇話会が設置され、当時の福井弁護士会会長も委員の一人に選任された。その中で、積極的に意見を提出し、情報公開条例の中に「知る権利」を明記させることができた。現在、武生市でも情報公開条例の制定作業中であり、情報公開制度懇話会が設置されたので、同様に弁護士会から委員を派遣している。

 このようにして、情報公開条例が制定された後には、市民オンブズマン活動が不可欠であろう。それは、単に行政のカラ出張や税金の無駄遣いを糾弾する活動ではなく、行政のシステムを法令に基づいた、透明なものにすることを目的とするものであるから、弁護士がしっかりと関与していくことが不可欠である。

 そのように考えて、私と他の弁護士とで最近ようやく福井でも市民オンブズマンを発足させることができた。まだ発足したばかりだが、早くも五五名の参加を得た。これが福井の地方行政を透明化し、市民のための行政を作っていく自立的市民の集団になってくれることを祈るばかりである。

3 裁判傍聴運動 

 司法改革は、右に述べたような行政改革の成果の上に立って、司法の運営主体に弁護士と市民が参加する法曹一元と陪参審を実現することにより、裁判官の視点を市民に向けさせることである。裁判官の視点を市民に向けさせるためには、まず市民が司法に関心を持ち、その情報公開を迫り、そこへの参加を求めるようにならなければならない。それを支えるのが、市民による裁判傍聴運動である。

 残念ながら、福井弁護士会では、まだ裁判傍聴の取組は弱い。五月の憲法週間に一回取り組んでいるだけというのが実状である。裁判傍聴にふさわしい事件が確保できないこと、弁護士会の裁判傍聴要員が確保できないことがその理由であろう。しかし、裁判傍聴があるとないとで、裁判官の訴訟指揮も変わってくる。市民も裁判の実状を理解することができる。そこからしか、司法改革を支える市民の情熱は調達できないであろう。

 裁判傍聴によって、審理の傍聴を経験した市民は、傍聴にとどまらず、審理への参加を求めるようになるだろう。そのような動きを生み出すものこそが、行政に対する情報公開を通じた、行政への参加活動の経験を踏まえた自立的な市民である。情報公開の不活発な社会は、「御上」に対する受動性依存性の強さを示しており、司法においてのみ参加の意欲が強くなるということはありえない。

 審理への参加を求めるようになった市民が、弁護士を通しての市民参加を図る法曹一元を求めるか、それとも直接みずから参加する陪参審を求めるかは、弁護士に対する信頼如何にかかわっている。弁護士に対する市民の信頼は、一昔前であれば、弁護士情報の非公開によって克ち取ることも可能であったろうが、裁判傍聴運動を経た市民は、裁判官と同時に弁護士の弁護活動も監視しているのである。同時に、敷居の高い弁護士であってはならないし、公益活動を積極的に行い、それを広報していく姿勢が求められるだろう。

 何よりも、弁護士が身近にいなければ、弁護士に対する信頼も生まれるはずがない。そのためには、弁護士が市民の目に触れる機会がなければならないし、何時でも何処でも誰でもが弁護士に対してアクセスできなければならないし、弁護士偏在の解消が不可欠である。

4 法律相談活動の充実

 全国的法律相談体制の確立のためのアクションプログラム(平成八年一二月二〇日)は、市民がいつでもどこでも誰でも容易に弁護士に相談しうる体制を作るために、いわゆる〇〜一地域及びこれに準ずる地域において法律相談センターを設置することを推進すべきであるとしている。中部弁護士会連合会でも、昨年一〇月の定期大会において、本庁所在地に法律相談センターを速やかに設置し、いわゆる〇〜一地域を中心とした弁護士過疎地域に法律相談センターを設置すること等について速やかに具体的準備活動を開始することを宣言した。

 福井では、武生支部管内が弁護士〇人地域、敦賀支部管内が弁護士二人地域である。しかし、武生支部管内であれば、自動車で一時間以内で最寄りの法律事務所まで赴けるので、問題はあまり生じていない。一番問題なのは、敦賀支部管内である。

福井弁護士会では、本年四月から本庁で法律相談センターを開設し、週一日有料法律相談を行うこととし、小浜市に法律相談センターを設置する方向で検討中である。

 しかし、私は、法律相談活動を充実するために何が何でも法律相談センターを設置するという方向での議論には賛成できない。石見その他の弁護士過疎地域で法律相談センターを設置したことが成功したのは非常に良かったと思うし、関係者のご努力を高く評価したい。

 しかし、ここでの問題は、市民の弁護士へのアクセスをどう確保するかであって、法律相談センターを設置することではない。各地の実情に応じた、弁護士過疎地での法律相談体制のあり方を各地なりに試みることが大切なのではないのか。その結果が法律相談センター設置方式であればそれで行けばよいし、それ以外の方策があり得るのであれば、それを試みればよい。何が何でも法律相談センター設置でなければならないというのは、中央官庁主導の行政のあり方と同様である。

 福井では、自治体・社会福祉協議会主催の無料法律相談を年間七一〇回(平成八年度)実施している。敦賀支部管内でみれば、その全市町村(二市五町一村)で社会福祉協議会主催の法律相談を年間七〇回実施している。巡回移動相談である。その負担は会員にとって極めて重い。多い会員では、社会福祉協議会主催の法律相談だけで年間三五回に達している。その他に、本庁での無料法律相談、損保協会での法律相談等、法律相談の回数は極めて多い。

  社会福祉協議会主催の法律相談は、市民が気軽に法律相談できる場として極めて有用であり、市民の間に定着している。そもそも法律相談は、住民福祉サービスとして自治体の自治事務(地方自治法二条三項一号)にもあたるものである。事件の直受については、社会福祉協議会でも、なるべく相談者の要求に応えて直受してほしいという。そうであるならば、法律相談センターの設置を検討する前に、まずはこれだけ定着している自治体・社会福祉協議会の無料法律相談を、市民の弁護士に対するアクセスの場として有効に活用することを検討すべきである。

 確かに各町村で行われる法律相談の回数は、年間数回程度のところも多い。しかし、福井県下全体の法律相談カレンダーを作成し、他市町村の住民にも開かれた法律相談を実施するならば、所定の法律相談センターで週一回だけしか法律相談が受けられないのよりも、よほど市民がアクセスしやすいものとなろう。

 そのように考えて、福井弁護士会業務対策委員会は、昨年から県社会福祉協議会との協議会を実施して、市民に使い勝手のいい法律相談体制の整備に着手しているところである。

5 弁護士偏在解消

 弁護士偏在対策要綱(平成七年三月二〇日)は、〇〜一地域を含む弁護士過疎地への法律事務所の設置促進、法律相談活動の充実、当番弁護士制度の充実、法律扶助の充実、法曹人口の適正規模増加、弁護士偏在解消のための基金創設、立法的措置(第二事務所の許容、法律事務所法人化、公設法律事務所の設置、弁護士補助職の資格制度の具体的検討、管轄区域の変更)をあげている。

 しかし、これで弁護士偏在が解消するとは思われない。弁護士偏在解消のための方策は、その地方に愛着心を持った弁護士が来ない限り、始まらない。法曹人口の増加は最低限の前提であるが、それだけでは弁護士過疎地に弁護士はやってこない。小規模会での弁護士活動の楽しさとやりがいは、小規模会に来ないと分からない。小規模会では、たった一人の弁護士でも、さまざまなことがやれるし、やったことの成果がすぐに現れる。弁護士偏在の解消は、拙稿を読まれた読者が小規模会に登録換することによってしか始まらない。

五、最後に  

 私は福井に来て良かったと思っている。だから、私は、「どうして福井なんかに越してこられたのですか。お生まれが福井なのですか」という質問が大嫌いだ。「よく福井にいらっしゃいましたね」と質問すべきだからだ。

 これからは、地方分権の時代である。そのような地方分権を支えるのが、郷土に誇りを持つ、自立した市民の存在である。司法・弁護士会の世界でも同様、地方分権の時代が始まるものと信じている。司法改革の動きは、日弁連の動きを超えて、地方独自に課題を設定して進めるべき時代に来た。ちょうど、奈良弁護士会が裁判傍聴運動を進め、平成九年二月には法曹一元モデルに基づく「法曹養成制度改革についての意見」を発表したように。福井弁護士会でも、そのような活動を進めていきたいと思う。そして、地方会の発表する司法改革案の競争の中で日弁連意見が形成されていくのが私の司法改革の理想である。

注1 小規模弁護士会助成制度は、平成八年一二月二〇日、司法改革を全国展開するために小規模弁護士会の財政的基盤を確立することを目的として設置された。もっとも、私は、財政不足が原因で小規模会で司法改革ができないとは思わないし、年間一五〇万円なり二五〇万円の助成金の支給を受けたからといって、司法改革ができるとも思わない。小規模弁護士会協議会zのご尽力は高く評価しつつも、私には、地方財政の貧困を背景に、地方が政権党に依存して中央にたかる構図と重なって見える。地方財政は中央からの補助金のゆえに一層衰退したが、その轍を踏まないことを祈りたい。福井弁護士会が、一日も早く、このような不名誉な助成金の支給対象から卒業することを願ってやまない。

98年2月28日記 自由と正義98年4月号掲載