「北日本新聞」平成9年5月10日(金)社会2面

【こころ支え合う:家族の苦しみ童話に(娘が見たアルコール依存症の父)】


 アルコール依存症者を抱える家族の苦しみを知ってもらおうと、富山断酒のぞみの会の上山順二(69)=富山市月見町=が、童話「涙がくれたおくりもの」を自費出版した。童話は、上山さんの娘で主婦の横田映代さん(32)が、子供のころの体験をもとに作った。2年前に断酒した上山さんは「娘の心の傷の深さをこの童話で知った。依存症の人や家族が読み、少しでも回復の助けになれば」と話している。

 童話は、アルコール依存症の父親を持つ女の子、めぐちゃんが主人公。母親は毎日深夜まで働き、めぐちゃんは寂しい思いをしていた。ある夜、独りぼっちで留守番していためぐちゃんの涙の中から、妖精(ようせい)が現れる。
 妖精と「涙の国」に旅立った めぐちゃんは、居酒屋で寂しそうに一人で酒を飲むお父さんや、駅前のお弁当屋さんで夜遅くまで一生懸命働き、めぐちゃんのまくら元で涙ぐむお母さんの姿をみつける。自分だけがつらかったのではないことを知っためぐちゃんは、希望を失わずに生きていこうと決意するー。
 上山さんの妻、香代子さん(60)が昨年秋に映代さんの家を訪れたとき、ワープロで打った十一枚の童話の原稿を帰り際に手渡された。添えられていた手紙には「子供時代の悲しい体験は、私の生き方の中でプラスの力になっています。だから、罪の意識で、あまり自分を責めたりしないでくださいね」と書かれていた。
 映代さんは「将来、子供に見せるつもりでとっていたんですが、出産の手伝いに来てくれた母へのお礼にと、思い切って渡しました」と話す。
 上山さん夫婦は、勇気づけられた。多くの人に依存症の親を持つ子供の苦しみを知ってほしいと出版を決意。三百部を作った。全国各地の断酒会の研修会に参加している順二さんは「断酒会の会員でも、家族の気持ちはなかなか分からない」と言う。
 童話はB6判五十ページで、断酒会員や家族に配る。