THE GUMSHOE FILE #14

ガムシュー・ファイル 第14回


 

インターネットなんか……こわくないからな、ブルブル

Who's Afraid of the Internet



 
ことの始まりは、ロジャー・L・サイモンからのファックスであった。『ニュー・ミステリ』(早川書房)に収録されているロジャーの「ノーと言おう」について質問したら、返答をファックスで送ってきたのである。そして、「ジローには電子メール・アドレスがあるのか?」と尋ね、自分の電子メール・アドレスを教えてくれた。
 
しばらくたって、古いワープロの調子がよくないので、コンピューターを購入することになった。ロジャーの『カリフォルニア・ロール』(早川ポケミス)と深い関わりを持っているので、当然アップルの製品(本体はマッキントッシュLC630)を買った。どうせなら、今流行りのインターネットにも加入しちまえ、と思って、ファックス/モデム(ポラロイド・ズームV34)も購入し、プロヴァイダー(NSKネット)に連絡した。こちとらはコンピューター音痴だから、インターネットに接続できるまでは、専門家に助けてもらったが、いったん接続してみると、ハイパー面白い。これは「道に落ちる」ほうのドウラクになりそうだ。まるで図書館か巨大な書店に迷い込んで、いろいろな本をつまみ読みしている感じである。違いは、大声で感嘆しても司書が黙らせに来ないことと、本棚のあいだを歩きまわらなくてもいいことだ。しかも、インターネット上にある情報のほとんどが無料で(ただし、市内電話料はかかる)入手できるのだ。前置きが長くなったが、今回はインターネット上で入手できるミステリ情報のことを報告してみよう。
 
インターネットに接続したら、≪ホワイトハウス≫や≪プレイボーイ≫のホームページを見る前に、ミステリのホームページを見てみよう。なにはともあれ、まず初めにデンマークのヤン・B・ステフェンセンが開設した The Myserious Homepage に接続しよう。≪エンターテインメント・ウィークリー≫のホットリストに載るくらい人気のあるあるサイトで、つながりにくいかもしれない。それで、最近アメリカにも ミラー・ サイトができた。ほかのホームページにリンクできるように、リンク先の名前が青文字で書いてあるから、その青文字の上でマウスをクリックすればいいわけだ。
 
メーリング・リストの項に、DorothyL (もちろん、あのドロシー・L・セイヤーズにちなんだ名前)というのがある。電子メールで意見の交換をする井戸端会議のようなもので、全世界のミステリ・ファンが文字でおしゃべりをする。インターネット加入者に毎日その「手紙」が電子メールの私書箱に送られてくるわけである。購読者の中には、ファンのほか、図書館司書、編集者、作家も含まれている。ときどき、ビル・クライダー、ジェレマイア・ヒーリイ、アレン・J・ヒュービン、パーネル・ホールも参加する。このダイジェスト版(購読者のメールを別々ではなく、まとめて一括したもの)の講読を希望するなら、青い文字で書かれた listserv@listserv.kent.edu の部分をクリックすると、電子メールの送信ボックスが画面に現われるから、sub DorothyL とだけ書いて、こっちのファースト・ネームとラスト・ネームをローマ字で付け加えれば、講読者の心得えのあと、ダイジェスト版が毎日のように送られてくるという仕組みだ。ただし、毎日平均一千行の英文が送られてくるから、覚悟するように。
 
アメリカの ClueLass HomePage は、エドガー賞やアンソニー賞の受賞作を即時に発表してくれる。それに、ここの「新刊リスト」はなんと半年先の刊行予定ミステリまで教えてくれるのだ。もう一つ、ほかのホームページにリンクしている新しいホームページを紹介しよう。イギリスの Tangled Web UKは、色彩が豊かすぎて、読みづらいかもしれないが、「ホワッツ・ニュー」という新情報が充実している。おれはここから女性作家のリストをダウンロードした。
 
特定の作家や探偵を扱ったホームページもある。アンドリュー・ヴァクスの The Zero とか、探偵スペンサーの Bullets and Beer ザ・セイントジェイムズ・ボンドアガサ・クリスティーアン・ペリーネロ・ウルフ弁護士ランポール修道士カドフェルなど。
 
カナダ犯罪作家協会(CWC)のホームページ をのぞいてみると、そこのニューズレターにおれの双子の兄貴、木村二郎の名前が出てきたのにはびっくりしたね。日本で九四年に刊行されたハードボイルド小説ベスト10が挙がっていて、6位が『ヴェニスを見て死ね』(早川書房)なのだ。マルタの鷹協会主催のファルコン賞のことだと思うが、この情報源はおれでないから、あの人だろうな。CWCの会員の新刊についての質問を電子メールで送ったら、マネジャーのジム・マクブライドから親切な返事を電子メールでもらった。
 
インターネットではいろいろなホームページを無料で見られるだけではなく、世界中の加入者の誰にでも電子メールで手紙を送れるのだ。電話やファックスよりも簡単なので、たいした用事がなくても、あいさつがわりに気軽に書いてしまう。それで、ロジャーには真っ先に電子メールを送ったのだが、受取人が見つからずに戻ってきた。今回の原稿は試しにインターネットで送信したけど、ちゃんと届いたかなあ。
 
ほらっ、インターネットなんかこわくないだろ? コンピューター嫌いのおれでも、操作できるんだからね。ただ、これだけは覚えておいてほしい。インターネットはたしかに情報の宝庫だが、インターネットに加入したからって、すべての情報が入手できるわけではない。インターネット上にない情報も多いのである。
 
ちなみに、おれの電子メール・アドレスは jkimura@nsknet.or.jp である。そのアドレスのところでマウスをクリックしたら、電子メールの送信ボックスが現われるはずだから、試してごらん。クリッ! ほらっ、できた!!!//


おわりに----
これは『ミステリマガジン』1996年2月号に掲載された原稿に、ずいぶん手直しを施したものである。元の原稿は電子メールに添付して送信してみたが、編集部にマクワードのソフトウェアがないので、文字化けしてしまった。仕方なく、ユードラJの文書にペーストして、送った次第である。
この原稿がスピンオフして、96年4月号から始まった『サイバーガムシュー』の連載につながるわけである。この『ガムシュー・サイト』でも『サイバーガムシュー』の原稿を数ヵ月遅れで再録する予定であるが、ぜひ『ミステリマガジン』(毎月25日発売。金沢では26日発売)最新号に掲載されている最新コラムを読んでいただければ幸いである。できれば、最新号を買って、掲載のミステリー作品を楽しんでいただければ、編集者たちが感涙で溺死するかもしれない。
そうそう、やっとロジャーのeアドレスがわかった。ロジャーはサーヴィス・プロヴァイダーを変えたために、eアドレスも変わったのであった。

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