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「 これが最後の恋だから 」





どうしてこんなに暗い顔をしてるの?

もうすぐ求めていた答えがわかるかもしれない。

眠っていたあたしの中のあたしが目を覚まし、

太陽へ駆け出していけるかもしれないのに。



昔の恋は違った。

傷つくたびに一枚一枚剥がされて、

あたしがむき出しになっていくようだった。

そして信じていたの。

最後の一枚が剥がされて、

純粋なホントのあたしに届く、

そういう誰かに出会える、

大切な日が来るって。



でもあの夜に、

あたしは氷に閉ざされた。

いいえ、自分で自分を閉じこめたの、

あたしの中のあたしを誰にも壊されたくなくて。



それからの恋は、

厚くて硬い氷越しの触れ合い。

表面を擦り合わせるたびに、

ゴリゴリって音がしてる。

硬いけどとっても脆い心の殻が割れないように、

ツルンツルンっていろんな相手をすり抜けた。

擦ってできたかすり傷のジンジンするのを、

大人の恋だって自分に言い聞かせながら。



でも。



太陽のパイ包み焼き甘酢あんかけ、

そんな感じのあなたに出会った。

あなたはあたしを大人でいさせてくれない。

あたしの嘘を受け止めて、みんな解きほぐしてしまう。



きっとこれが最後の恋。

あたしの心の最後の一枚を剥がして、

あたしの中のあたしを滅茶苦茶にしたあの人にも、

おんなじことを言ったっけ。

でも今度こそ、最後の恋と決めたの。

あなたはあたしの殻に楔を打ち込んでくれた。

音を立てて崩れていく厚い氷の壁の向こうで微笑んで、

あたしの中のあたしだけを見つめてるあなただから。



さあ、頑張って微笑んで。

薄暗い顔をした鏡に向かって励ますの。

答えを確かめずにいるなんて、もう耐えられないよ。

たとえ傷ついたとしても、これが最後の恋だから。


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