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< YAMAI >





この顔は僕じゃない

この声は僕じゃない

この皮膚は僕じゃない

この爪や毛は僕じゃない

この結合織は僕じゃない

この筋肉は僕じゃない

この腱は僕じゃない

この骨は僕じゃない

この骨髄は僕じゃない

この内臓は僕じゃない

この血液は僕じゃない

この神経は僕じゃない

この脳は僕じゃない

この細胞どもは

みんな僕じゃない

もちろん五感なんて

どれも僕じゃない

ホントはただ

精神(こころ)だけ



心?



人が好きだ

人を愛してる

ホントに?

そうじゃないよね

人を好きな僕が好きで

人を愛してる僕を愛してる

だから

ホントの僕は人を好きじゃなくて

ホントの僕は人を愛してもいないんだ

ただそういうものに憧れている

そうありたいと願い続け

いつしかそれが僕なんだと思いこんだ

僕という透明は

幾億もの憧れに接着された

世界中に散らばっている価値の薄紙を

何重にもまとって恥ずかしがる

絶対零度のアストラル体



毎日毎日こうやって

僕と心を擦り合わせようとしても

同じ極性の磁石みたいにして

精神のリニアモーターは

時速500kmで吹っ飛んでいく



この遊離感覚

巧妙な罠を逃れて

真実を見たような充実

だけど

それこそが罠の本質

知性という名の症候群

迷妄という名の症状

病によって思いこまされていると

気がつきもせず見下しながら

もちろん病識は



ない


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