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「 春、大雨が降った午後。」





広がっていくもの。

そう、わたしのここんとこから。

広がっていくもの。

空気よりも希薄に、水よりも艶やかに。

広がっていくもの。



たとえば、

マッキントッシュのブレードが舌の塊を押しのけ、

声門のハの字を露わにする、そのためだけに、

不格好な肉の几帳を払い去ろうともがく、

確かにただの肉の皮一枚にすぎないけれども、

そこにこそ何かしら魂のようなものが宿っている気がする。



いのち。

わたしはいつもそれに憧れるけれど、

そういうわたしの核心とは別のところに、

関係ないよっていう顔をしてるもの、

それが、いのち。



広がっていくもの。

ぐんぐん、ぐんぐん、広がっていくもの。

しぶきたつような桜樹の運河の流れの向こう側に、

どっしりと青々と滑らかに広がっていくもの。

あの連峰は、いのちなのかなぁ・・・。



散歩。

春なんだから、春なんだから。

ああ、いつのまにか広がっていくもの。

望もうと望むまいと、

散歩からさえ広がっていくもの。



わたしという一点は、

この広がりのいつも真ん中にいて、

そうして広がりとの隙間を感じていながら、

やっぱり広がりの旅立ち駅なんだなぁ。

なんか、せつないけどね。



広がっていくもの。

わたしから広がっていくもの。

それはなんだか、魂といのちとのことに似ている。

わたしの喉ぼとけの奥にある肉の几帳と、

わたしに知らん顔をする憧れが、

水面にしたたり落ちた涙と波紋の相似形をしていて、

さて、これからどうしたものかを決める逡巡よりも先に、

なんか熱いものがこみ上げてきていた。



これって、言葉、なのかな?


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