前回までのお話
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ヴェスタリオミア物語 Interlude 

"Searchin' for my LOVE"(1)

 
 
 
 
 

雨音にアースライト・ハープ。あの日と同じ空気に包まれながら、アリム・レイ

は自分の船室のベッドに寝転がって軽く目を閉じていた。
 
 
 
 

彼はこの1ヶ月、人の三倍は働いていた。「ノア2」の機関部主任補佐としての

任務の他に、「ノア」の捜索の総責任者として、寝る間も惜しんで仕事をこなし

てきたのである。だから、三日ぶりに戻った自分の船室で、彼はできることなら

ぐっすり眠りたかった。
 
 
 
 

けれども、眠ろうとして目を閉じると、決まってあの日の光景、エミィの両親が

死んだことを彼女が知らされたあの日の光景が、脳裏に鮮明に浮かび上がってき

て、眠ることができなかった。
 
 

「エミィ・・・、守ってやれなかった。」
 
 
 
 

あの日のエミィの透明な表情が、それだけ切り取ったようにハッキリと思い出さ

れる。今もどこかで、彼女はあんな顔をしてうつむいているのだろうか・・・。

アリムは知らずに、涙ぐんでいた。
 
 
 
 

この1ヶ月の間、アリムは他の乗組員の前では努めて明るく振る舞っていた。両

親と恋人が行方不明だということを心配して気遣ってくれる、周囲の人の気持ち

は嬉しかったが、ときに同情されることが辛くもあったし、何よりこの状況に甘

えてしまいそうになる自分が怖かった。だから、なるべく不安や苛立ちを表に出

さないようにしていた。
 
 
 
 

しかし、1ヶ月たってもなんの手がかりも得られないことに、さすがのアリムも

疲れ切り、だんだん気力が衰え、弱気になっていった。そしてとうとう今日は、

第2クールの仕事が終わったとたん体中の力が抜けてだるくなり、何をする気も

起こらなくなってしまった。いつもなら機関部の仮眠室でボーっとしているのだ

が、船室に戻ったまま、結局、第3クールは休んでしまったのである。
 
 
 
 

機関部の主任、ロイ・コールマンに連絡を取ると、モニターの中のコールマンは

同情のこもった表情を一瞬見せてから、「こっちは大丈夫だから、ゆっくり休め

よな」と笑って励ましてくれた。元気づけようとしてくれているのが伝わってき

たけれど、そのことがますますアリムを落ち込ませた。
 
 
 
 

眠ることもできず、かといって起きあがる気力もなく、アリムは何度も寝返りを

打って時を過ごしていた。両親のことももちろん心配だったが、不思議なほどに

エミィのことばかりが心に浮かんでくる。それがまた、自分はなんて薄情な人間

だろうかと、アリムの心を責め続けていた。全てのことが悪い方向に進んでいる

ようで、「ノア」の乗組員の無事を信じる気持ちさえも冷めて見ている、自分の

中のもう一人の自分が、どんどん大きくなっていくように思えた。
 
 
 
 

何時間がたったろうか、そろそろ背中が重くなって、頭痛がし始めた頃、船室の

インターホンから女性の声がするのにアリムは気が付いた。
 
 

「アリム、アリムいるんでしょ?入るからね。」
 
 

「え!?」
 
 
 
 

アリムは一瞬、ドキッとして跳ね起きた。それと同時に、電子ロックがかかって

いるはずの船室のドアが開いて、一人の女性が入ってきた。連邦宇宙軍士官の制

服を少しだらしなく着崩して、短めに切りそろえた金髪には、ところどころ虹色

に輝くメッシュを入れている。前髪をあげた広い額には、流行の“フローティン

グ・ジュエリー”が浮かんでいる。それも、既にその原石が掘り尽くされて幻の

石と言われている、エメラルドだ。
 
 
 
 

「アリム、元気・・・そうじゃないね、ひっどい顔っ!」
 
 

「テリー・・・。ロックかけてあっただろ。なんで勝手に入って来るんだよ。」
 
 

「ああ、あんなロック、開けるの簡単じゃん。システムを知ってれば、あとは磁

 性を逆転させてやればいいんだよ。あたしをそんじょそこらの通信技師と一緒

 にしてもらっちゃ困るんだよね。なにしろ・・・」
 
 

「そういうことじゃないだろっ!?」
 
 

アリムはイライラしながら、前髪をかき上げる。
 
 

「ホントにさ、アリムの髪って素直な髪だよね・・・。」
 
 

テリーは少し眩しそうに、アリムを見つめた。
 
 
 
 

彼女、テリー・ポインタースは、この恒星間連絡船「ノア2」の通信担当士官で

ある。彼女の父は、地球圏でも屈指の財閥、ポインタース財団の総裁であった。

彼女がノア計画に参加することに財団自体は初めいい顔をしなかったが、学校に

も入らずに遊び回っている娘に手を焼いていたポインタース総裁は、これで娘が

真面目になってくれるならと、しぶしぶ認めざるを得なかった。
 
 
 
 

いざ認めるとなると、財団は全面的にノア計画を支援し、莫大な援助金が寄せら

れた。そういう経緯もあって、軍の訓練もほとんど受けていないテリーは、最初

から士官としての待遇を受けることになる。そのため、乗組員のほとんどは彼女

を煙たがり、冷ややかな目で見ていたのだが、日が経つに連れて、彼女は周囲の

人間が驚くほどの多彩な才能を発揮し始めた。もともと趣味で数学や物理学、電

子工学などの本を読みあさっていた彼女は、様々な分野で担当のスタッフをしの

ぐ働きぶりを示し、今では全ての乗組員から一目置かれる存在になっていた。
 
 
 
 

そうはいってもテリー自身は、心から周囲の人間に溶け込むことは、なかなかで

きなかった。そんな中で、歳が一番近いアリムにだけは、ある程度うち解けるこ

とができていたのである。
 
 
 
 

「アリム、そろそろスタッフ・ミーティングが始まる時間だよ。「ノア」の捜索

 をどうするかが中心議題なんだから、あんたがいなけりゃ話が始まんないじゃ

 ん。わざわざ、呼びに来てやったんだぞ?」
 
 

「ん?・・・ああ、そっか。忘れてたよ、ごめん。」
 
 

「忘れてたよ、じゃないだろ?ホントにもう。さ、行くよ。ちゃんと着替えて、

 髪も・・・」
 
 

「・・・ダメなんだ。何もしたくなくて。どうしたらいいか、全然わかんなくて

 さ・・・。」
 
 
 
 

そう言いながら、アリムはうつろな目をして床に視線を落とした。テリーはその

様子を見て一瞬ピクッと全身を震わせると、大声を上げる。
 
 

「アリム・・・!」
 
 

「え?・・・うっ!」
 
 
 
 

テリーはベッドのそばに歩み寄ると、アリムの頬を殴った。呆然と見上げるアリ

ムの視線の先で、テリーは目に涙をためて睨みつけている。
 
 
 
 

「あんたがこの1ヶ月、どれだけ頑張ってきたかみんな知ってる。だからこそ、

 なんの手がかりも見つからなくても、1ヶ月も「ノア」の捜索をみんなで続け

 てきたんじゃないか。でもね、もう限界なんだよ。みんな、今日のミーティン

 グで捜索活動をうち切りたいと思ってる。わかる?あんたが今しっかりしない

 と、あんたの両親や・・・恋人を諦めなくちゃいけなくなるんだよ?あんたは

 それでもいいのか?もう、諦めちゃうのかよ!」
 
 

「テリー・・・」
 
 

「あたしだって、あんたをゆっくり休ませてやりたい。でも、今は頑張らなきゃ

 ダメだ。そうしなきゃ、あんたが助けに来てくれるのを待ってる人が、可哀想

 じゃないか。この1ヶ月、ずうっと頑張ってきたのだって、無駄になっちゃう

 だろ・・・!」
 
 

そう言って唇を噛みしめるテリーを見つめながら、アリムは少し微笑んだ。
 
 

「お前って、いいやつだよな。僕のために、泣いてくれるんだ・・・。」
 
 

「なっ・・・!甘ったれてんじゃないよっ!あんたの顔見てたら、情けなくって

 泣けてきただけなんだからねっ!」
 
 

頬を真っ赤に染めながらそう叫ぶと、テリーは大股でドアの方に向かって歩きな

がら、振り返りもせずに言った。
 
 

「あたしは先行くからね。さっさと準備して来な。遅刻してもあたしの責任じゃ

 ないからねっ!」
 
 
 
 

そんなテリーを苦笑して見送ると、アリムは不意に真顔に戻って、フッと息を吐

き出した。まったく、思いっきりひっぱたきやがって。だけど、いつもテリーは

僕をああやって元気づけてくれる。奥歯をギュッと噛みしめると、アリムは急い

で洗面所に向かった。
 
 
 
 
 
 
 
 

ミーティングルームは、中央制御室に隣り合っている。会議などがないときは、

スタッフの談話室になっていて、時には制御管理システム“キュロット”を囲ん

でゲームをしたりする、くつろいだ雰囲気の空間だ。しかし、今は全く違ってい

た。スタッフ・ミーティングが始まって1時間あまり、部屋中が張りつめた重苦

しい空気に包まれている。
 
 
 
 

「それではジェフリー艦長、どうしても、「ノア」の捜索は中止するお考えなん

 ですね?まだ、可能性はあるというのに・・・。」
 
 
 
 

アリムが低く静かな声でそう言うと、ロン・ジェフリー艦長はアリムの目を見据

えながらハッキリとした口調で話し出した。
 
 

「その通りだ、レイ少尉。私も熟慮を重ねたし、乗組員の意見も一致している。

 君の気持ちを考えると心苦しい限りだが、もはや決断の時だと思う。我々は全

 力を尽くして捜索に当たったが、残念ながら、遭難した「ノア」を見つけだす

 ことはできなかった。」
 
 
 
 

そこで言葉を切ると、ジェフリーは小さく息を吸い込んでやや目を伏せ、それか

らまた話を続けた。他のクルーは、皆一様に息を殺して、二人のやりとりを聞い

ている。
 
 

「君はまだ、可能性があると言ったね?確かに、「ノア」からの緊急通信あるい

 は救難信号を我々が受信できていない可能性はある。この船に積んでいる新型

 の全方位・全座標検索装置は、まだまだ改良の余地を残している。しかし、そ

 の点も考慮して、我々は既にこの1ヶ月で5回のスキャンを実施した。5回だ

 よ?その5回のスキャンで波動転換炉が限界に来ていることは、機関部主任補

 佐である君が、一番よく知っているのではないかね?」
 
 

「ええ、波動転換炉にはかなりの負荷がかかっています。なにしろ、全方位・全

 座標検索には、膨大な波動出力が必要ですから。それは認めます。無理を承知

 で5回ものスキャンを許していただいたことも、感謝しています。」
 
 
 
 

アリムはゴクッと唾を飲み込んでから、再び、ゆっくり噛みしめるように言う。
 
 

「しかし、C.ロスの波動転換理論では、3次元内の座標の距離によっては、発

 信された情報が最大で2ヶ月程度、遅れて伝わると言われています。もちろん

 その可能性は0.3%に過ぎません。しかし、宇宙空間における0.3%がど

 れほど大きな数字か、それを考えてみて下さい。」
 
 
 
 

ジェフリーは大きくため息をつき、それから少し躊躇したが、意を決したように

口を開いた。
 
 

「少尉、可能性の問題なら、十分に検討を重ねた。「ノア」がディメンション・

 ジャンプの際にトラブルを起こしたことは、様々な証拠から疑いのないところ

 だ。そして、“キュロット”の出した答えはこうだ。「ノア」は3次元空間内

 での再結像に失敗、あるいは超空間通信機を起動する間もないほどの速さで波

 動転換炉が崩壊、どちらにしても乗組員が脱出できた可能性は・・・限りなく

 ゼロに近い。」
 
 

「それはわかっています、だけど、ゼロじゃない・・・!」
 
 
 
 

アリムは知らず知らず、声を荒げていた。ジェフリーはアリムから目を逸らさず

に、声を和らげて話しかける。
 
 

「アリム、わかってくれ。私も辛い。私だって、「ノア」には息子が乗っていた

 からね。しかし、これ以上波動転換炉を酷使することは、自殺行為だ。通常の

 航行さえも、ここ数日不安定になってきている。私は艦長として、乗組員の命

 をこれ以上危険にさらすわけにはいかない。・・・この決断は、“こころの協

 定”に照らしても、恥じないことだと思っている。」
 
 
 
 

この“こころの協定”とは、22世紀の終わりに提案され、24世紀では地球圏

における価値観の中心をなすものである。「理性偏重は人類史上、最大の敗北で

ある」との書き出しで始まるこの協定は、簡単に言えば人間の心を、経済や政治

や軍事や法律などよりも優先させる、というもので、あくまでも個人間での紳士

協定に過ぎなかったが、全人類の90%前後が自分のIDカードに、この協定に

同意することを明記していた。
 
 
 
 

それは、21世紀初頭から「こころとは何か?」を真剣に検討し続けてきた、地

球人類の英知の結晶ともいえるものだった。
 
 
 
 

もっとも、協定の制定委員の一人であった詩人パルマーは、「こころさえも/契

約の檻に縛らねば/信じることができぬ/人間装置の/悲しみよ」との一節を発

表して、この協定自体の抱える矛盾への疑問を提起していたのだが、とにかくこ

の協定に反するような行為は、恥ずべきものとされていた。
 
 
 
 

逆に言えば、この協定に照らして恥じない決断、と言われてしまえば、それ以上

は反論できない場合が多かった。アリムはうなだれて、唇を噛みしめる。確かに

これ以上、みんなを危険にさらすわけにはいかない・・・。
 
 
 
 
 
 

しかしここに、そんな協定など全く気にしていない人物が3人いた。そのうちの

1人、テリーが立ち上がって発言する。
 
 

「艦長、意見を言ってよろしいでしょうか?」
 
 

「ん?ああ、ポインタース・・・」
 
 

「発言をお許しいただき、ありがとうございます。通信担当士官といたしまして

 このたび私は、全方位・全座標検索装置に画期的な改良を加えることに成功い

 たしました。次回スキャンを実施いたしましたら、必ずや「ノア」からの信号

 を受信できると、確信いたしますわ。ほほほ。」
 
 
 
 

続いて、2人目の男が立ち上がる。機関部主任、ロイ・コールマンだ。
 
 

「機関部主任として、申し上げますっ!波動転換炉は確かに爆発寸前ではありま

 すが、機関部職員一同、総力を挙げてことに臨みますれば、必ずやあと1回の

 スキャンに耐えられるものと、確信いたしておる次第でありますっ!」
 
 
 
 

そして3人目、食料生産区管理部長、モリヤ・サノが座ったまま、ジェフリーを

横目で睨んで言う。
 
 

「ジェフリー艦長様も、偉くなったもんじゃのぉ。なぁにが、“こころの協定に

 照らしても恥じない決断”じゃ。技術屋がそろって、まだ1回やれると言って

 るんじゃから、やるべきじゃないかね?まあ、これから永遠に、モリヤ・サノ

 特製きのこシチューが食えなくなってもいいと言うなら、かまわんがのぉ。」
 
 

「コ、コック長、それは・・・」
 
 

「さあ、艦長様。どうするんじゃな?」
 
 
 
 
 
 
 
 

結局、それから3日後、最後のスキャンが行われた。
 
 
 
 

検索装置のコントロールパネルの前に座って、アリムは少し緊張していた。もし

このスキャンが失敗すれば、今のところ両親やエミィを探す手だては失われてし

まうのだ。
 
 

「アリム、大丈夫だよ。きっと見つかるって。」
 
 

いつの間にか後ろに立っていたテリーが、アリムの両肩に手を乗せて、明るい声

で話しかける。アリムは肩越しに、テリーに笑顔を見せた。
 
 

「テリー、ホントにありがとう。感謝の言葉もないよ。でもまさか、お前が実際

 に検索装置を改良していたなんて、びっくりしたよな。」
 
 

「あはは、あったりまえじゃん。あたしは遊ぶのは好きだけど、ハッタリはカマ

 さないんだからね。」
 
 

「そうだな。お前、嘘はつかないもんな。」
 
 

「えへへ・・・」
 
 
 
 

小さく笑うとテリーは、クルッと後ろを向く。背中越しにその気配を感じて、ア

リムは上半身だけよじって振り返った。
 
 

「どうしたんだよ、テリー・・・。ん?なんだ、お前、泣いてんのか?」
 
 

「うっ、ズズ、うっさいんだよっ!目にゴミが入って、ズズ、痛いんだよっ!」
 
 

「おいおい、鼻水ふけよ。ほら、ハンカチ・・・」
 
 

「自分のあるからいいってばっ。そ、それより、始めようぜ、スキャンを。」
 
 

「了解。でも、変なやつだなぁ。僕が何か、気に入らないこと言ったんなら謝る

 けど・・・。」
 
 

「なんでもないったらっ。早く始めろよ。大事な両親と、愛しい恋人が、あんた

 を待ってるんだろが・・・。」
 
 
 
 

テリーにそう言われて、アリムはちょっと肩をすくめてからコントロールパネル

に向き直ると、検索装置の始動ボタンを押した。
 
 
 
 

ほどなく、「ノア2」全体に細かい振動が伝わると、クゥゥゥンという音ととも

に検索が開始された。これからおよそ8時間で検索は完了する。8時間後には、

全ての結果が出るんだ。父さんや母さんや、そしてエミィが、無事かどうかがわ

かる・・・。アリムはコントロールパネルの上に置いた両拳をギュッと握りしめ

た。後ろでは既に涙の乾いたテリーが、装置の作動状況を示すモニターを、食い

入るように見つめている。
 
 
 
 

モニターには、刻々と検索状況が映し出されていく。それは球体の内部に波のよ

うに描き出されるので、かなり熟練した者が見ないと、微弱な変化は見落とされ

てしまいそうだった。そしてこの船には、アリムとテリー以外、このモニターに

習熟した人間はいない。だから、二人は30分ずつ交代で、モニターを監視し続

けたのだが、集中力を維持するのは大変なことだった。もちろん、検索結果は機

械的にも記録されるのだが、微弱な変化は誤差範囲として排除されてしまうこと

もあったので、どうしても人間が同時に監視する必要があった。
 
 
 
 

検索開始から1時間、2時間、3時間と経過しても、全く何も見つけることはで

きなかった。4時間、5時間、6時間・・・。疲労もピークに達して、アリムも

テリーも焦りを感じ、苛立ち始めていた。
 
 
 
 

そして、とうとう7時間が過ぎ去り、残り1時間となる。既に全宇宙の88%が

検索されていた。
 
 

「アリム、もうあたし、疲れた・・・。ダメかもね・・・。」
 
 

「まだ10%以上残ってるんだ。」
 
 

「うん、そうだけど、さ・・・。」
 
 
 
 

時折2人に差し入れを持ってくる乗組員から、どうも結果は芳しくないという情

報が艦内中に流れ、「ノア2」全体を重苦しい空気が支配していた。
 
 
 
 

7時間30分、40分、50分・・・。無情に時間は経過し、未検索領域も数%

になってしまった。最後の30分はアリムが担当していたが、もう目が霞みかけ

てきていた。父さん、母さん、エミィ。エミィ、エミィ、エミィ・・・。朦朧と

し始めた意識の中で、アリムはそう何度も繰り返した。
 
 
 
 

・・・残り30秒。未検索領域は既に1%を切っている。もう、ダメだ。アリム

は一瞬モニターから目を離し、うつむいてしまう。
 
 
 
 
 
 

ア・・・
 
 

          リ・・・
 
 

                    ム・・・
 
 
 
 

え・・・!?突然の稲妻のように、しかし非常に微かに、頭の中を声がよぎった

気がして、アリムはハッと顔を上げた。と、それとほとんど同時に、後ろからモ

ニターを覗き込んでいたテリーが叫び声をあげる。
 
 
 
 

「見てっっっ!!アリム、これ、見てっっっっ!!!」
 
 







作・ 小走り
EMAIL:kobashi@nsknet.or.jp
http://hideo.com/kobashi/




 

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