魔法珠 〜Magic・Soul〜 14
  14.
「まだ来ておられないようです。しばらく待ちましょう」
 しかし、その前にその場の雰囲気が変わる。
「来たな」
「ああ。
 空間をねじ曲げて作った結界だな。閉じこめられた。
 魔法珠はもらえないな。ここから出るまでは」
「ええ、そうです」
 言葉と同時に現れる何十体もの魔族。その先頭に立っていたのは普通の人間に見える。が、こんな時に現れるんなら、今回のことの黒幕である高位魔族だろう。
「あなた方に最後の魔法珠を渡されると困ります。 まあ、今でも困っているわけですが。
 だからカタをつけに来ました。あの方は俺が護る!!」
「なるほど。
 お前だったのか、サフィア」
「? なぜ人間が俺の名……。
!! この気は!」
 リアールは言葉と同時に、その気をガラリと変えた。
(強い、闇の気。なぜ…?)
「ゼルフェ様!」
 ずがしゃあっ!!!
 その場ですっこけるあたしとキアルス。
(我ながら、器用なマネを……。いや、そうじゃなくて…)
 身を起こしながら、
「ゼ、ゼ、ゼ……、ゼルフェ〜〜?!」
 あたしとキアルスの声が見事にハモる。
「あ、みなさん。戻っていて下さい」
 同時に、サフィアを残して魔族の姿がかき消えた。
(ってことは…あたしらはずっと敵対してる奴と一緒に旅をしていたのか?)
「っとに。やっぱりまた人間界にいたんですか!?
 いくら人間が好きだからって、人の姿をして出歩くのはよして下さいと、何度も言ったでしょう! あなたが行方不明なのをごまかすのも大変なんですよ。
 こっちの苦労もわかって下さい!!
 今回も28年前から行方不明だと思えば……。自分の立場がわかってるんですか。殺されたって文句は言えないんですよ!?」
「あ…いや、その…な」
「とにかく!
 下の者にも示しがつきませんから、帰ってもらいますよ」
「相変わらず、お前は口うるさいな…」
「そうでもなきゃ、あなたは今頃、魔族の前から姿を消してます」
「あーいえば、こういう…」
「い・い・で・す・ね!!」
「はいはい。わかったわかった」
 あたし達はただ、そのやりとりをポカンとして見守るだけだった。
「あ、の…サフィアさん、でしたっけ?
 いいんですか? 目上の相手にそんなこと言って…」
 立ち直ったのはキアルスの方が先だった。まだショックは抜けきれてないようだったが。
「いいんだよ、こいつは。
 つきあいも長いからな。2000年ほどだっけか。
 ずっと一緒だからな」
 答えたのはサフィアではなく、リアール。いや、ゼルフェだった。
「あ、すみません。お見苦しいところをお見せしてしまって。
 この人すぐ人間界に遊びに行くんです。
 1度や2度じゃないんですよ。今回なんか、30年位も行方をくらまして。
 あなた方も何か言ってくれませんか?
 全然こりないんだから……」
「あ、はあ…………」
「大変ですね………」
 どんな反応をしていいかわからなかった。
「ですから、この人に危害を与えないで下さいね。その時は私が相手になります。
 この人は世界を滅ぼそうとも人を滅ぼそうとも考えてないんです。本当に人間が好きだから。
 この人は俺が護ります!」
「大丈夫だよ。あたしは最初から魔法珠の封印を強めようとしていただけで、こいつに何かしようなんてかけらも思ってないよ」
「ええ、私も上の方から頼まれたのは、魔法珠の封印だけですし。
 本気でやりあったら、こっちが負けてしまいますよ。
 ま、リアールさんの性格なら私達には本気を出せないでしょうけどね。それは私達も同じですから」
(確かにそうだな。
 あたしはもう、リアールに危害を与えるなんてできるはずがない。一度馴れ合ったら、敵対するなんて、出来ないから)
「それで思い出した。結界、解いてくれないか?
 多分、もう来てるだろうし。魔法珠の封印しないとな」
「あ、そうですね。
 俺達も帰りましょう」
「いや、待て。サフィア」
「何ですか?
 今度こそ帰ってもらいますからね。拒否は認めません」
(サフィアって、人当たりはいいけど、ゼルフェ相手だと、けっこう強気に出てるな)
「いや、わかった。それはわかったから。
 そうじゃなくて、最後の封印を見届けたいんだよ。
 いくら使命だっていっても危険があるかもしれねぇ。もしそうなったら強制的にでも、その力を抜くからな。
 元々は俺の力だからどうにでもできる」
(本当に、冥龍からのイメージからは、ほど遠い)
 同時にサラズィアとキアルスは思う。
「多分、大丈夫だとは思うけどな。
 心配してくれてありがとな」
「危険なようなら私も手を貸しますよ」
「…全く、仕方ありませんね。まぁ、何かあったら寝覚めが悪いですし、俺も手を貸しますよ。
 じゃあ、結界を解きますよ」
 あっと言う間もなく。前と同じ風景が広がっている。
 ただ一つ違うのは、その場にたたずむ1人の闇精霊。
「その少女か? 他の2人は魔族のようだし。
 その魔族はこの場にいてもいいんだな?」
「ええ、かまいません。
 彼女に魔法珠を」
 そしてあたしは、その闇精霊に近づく。手渡された魔法珠の力がペンダントを通して流れ込む。
 みんなの心配をよそに、結局魔法珠はあたしに何の影響も与えなかった。
「大丈夫、のようですね」
「ああ、全然平気だ」
「じゃあ、俺達は帰りますね。
 さ、ゼルフェ様」
「ああ、気を付けてな。
 またな」
「またな、って、また姿を消されては困ると言っているでしょう。自分が何者かわかってるんですか!
 では、さようなら」
 ゼルフェの首根っこを掴んで、2人は消える。きっと、空間を転移したのだろう。
「冥龍もサフィアさんにかかったはかたなしですね」
 そう言って、苦笑している。
「そうだな。
 でも、いい奴だよ。本当に。
 それよりも、キアルスはこれからどうするんだ?」
「そうですね、」
 そう言って、さっきの闇精霊の方へ問いかける。
「私が何かする必要があるものはありますか?」
「いや、特に必要というものはない」
「サラズィアさんはどうするんですか?」
 あたしは、この先どうするかはとっくに決めてあった。
「あたしはせっかく逃げ出したんだからな。戻る気はない。
 このまま旅を続けるさ」
「じゃあ、一緒に行かせてもらっていいでしょうか?」
「ああ、かまわない。
 まあ、行くあては全くないがな。それでいいなら」
「じゃあ、私は同行させてもらいます。
 上の方達への報告、お願いできますか?」
「ああ、かまわない。
 そのかわり、何かあったらすぐ来てもらうことになるだろうが」
「ええ、かまいません。
 よろしくお願いします。」
「じゃあな、キアルス」
 そう言って、その闇精霊は去っていった。
「そういうことですが、よろしいでしょうか? サラズィアさん」
 見送った後、こちらを振り返るキアルス。
「ああ、いいさ。旅は道連れっていうしな。
 あれだけにぎやかだったのが一気に1人になるのも少し淋しいし。
 ま、リアールは仕方ないな」
(ホント、にぎやかだったんだよなぁ。わいわいと)
「あの2人もけっこういいコンビですよね。
 まあ、あの様子なら、リアールさんはサフィアさんに頭が上がらないでしょうね。
 楽しかったんですけどね」
 少し、しんみりした空気が漂う。
「今日は、宿に泊まって、出発は明日にしましょうか」
「ん…そだね」

 ここでほとんどのオチがつきました
 いやぁ、実はそういうことだったんですよ(笑) これは最初から決まってました っていうか、これが書きたかったので…
 なのに、キャラたちが暴走してくれたんですよ 最後にみんなして… まあ、けっこう気に入ったけどね
 次で本当に最後!! 一番オチは一体どう付くのか?!
 気になる最終回をどうぞっ!!

魔法珠 〜Magic・Soul〜 15