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代替医療
代替医療とは、通常の病院で行わない医学、医療のことを指します。具体的には、鍼灸、健康食品、アロマテラピーなどが含まれます。最近、癌の治療において健康食品(アガリクス、プロポリス、AHCCなど)が注目されていますが、これらを科学的に調査、評価することが求められています。代替医療の現状をご理解いただく上で参考になると思われますので、平成11年10月10日より横浜で開催された第2回日本代替医療学会学術集会での基調講演の内容をご紹介します。
代替医療の海外での現状
Alternative Medicine in the World

鈴木信幸

金沢大学医学部産婦人科学教室

●代替医学・医療の定義

 代替医学・医療とは、我が国において未だなじみの少ない用語であるが、アメリカでは、近年急速に脚光をあびている医学分野であり、alternative medicine(代替医学)またはcompIementary and alternative medicine(CAM)(補完・代替医学)、integrative medicine(統合医学)という用語が一般的に使われ始めている。また、最近では専門のジャーナルもいくつか刊行されている。日本代替医療学会では、代替医学・医療を[現代西洋医学領域において、科学的未検証および臨床未応用の医学・医療体系の総称]と定義している。いずれにせよ、代替医学・医療とは「通常の医学校では講義されていない医学分野で、通常の病院では実践していない医学・医療のこと」である。世界にはアーユルヴェーダ、ユナニ医学、シッダ医学をはじめいろいろな医学があり、人口比率からみると我が国のように現代西洋医学の恩恵に預かっている人達は意外に少なく、国連世界保健機関(WHO)は世界の健康管理業務の65から80%を"伝統的医療"と分類している。つまり、これら伝統的医療が西洋社会において用いられた場合はすべて代替医療の範疇に含まれるわけである。

●代替医療の領域

 代替医療の範囲は広く、世界の伝統医学・民間療法はもちろん、保険適用外の新治療法をも含んでいる。代替医療とは具体的には、ビタミン微量元素等のサプリメント、薬効食品・健康補助食品(抗酸化食品群、免疫賦活食品、各種予防・補助食品など)、ハーブ療法、アロマセラピー、中国医学(中薬療法、鍼灸、指圧、気功)、インド医学、食事療法、免疫療法、精神・心理療法、温泉療法、酸素療法等々すべてが代替医療に包含されている。近年、新聞、雑誌、テレビ、インターネット等をはじめとする高度情報化時代の情勢もあって、これら代替医療を求める患者が我が国でも急増している。一方、他の先進国においてもほぼ同様な状況が見られ、代替医療が世界的に新しい医学の潮流となりつつある。本講演では、代替医療の海外での現状、特にアメリカにおける現況について展望する。

 ●NIHに代替医療の調査・研究機関が誕生

 代替医療の研究がより深く進められるとともに米国民の代替医療に対する関心の高まりを受け、1992年米国議会は国立衛生研究所(NIH)内に、代替医療事務局(OAM)を設立し、1992年と1993年に事務局に200万ドルの資金を割り当てた。議会命令はOAMの目的の大要を以下とした
 ・代替薬物医学治療の評価を促進する
 ・代替療法の効果を調査し、評価する
 ・代替医療に関して一般市民と情報を交換する情報集散センターを創設する
 ・代替医療の治療におけるリサーチトレーニングを支援する
 その後OAMの予算は着実に増えて1997年には1200万ドルとなった。さらに、1998年に入るとOAMは格上げされThe National center for Complementary and Alternative Medicine(NCCAM)となり予算も2000万ドルと増額され、NIHの18の機関やセンターと肩を並べるまでになった。そして1999年には前年度比2.5倍の5000万ドルの予算が割り当てられた。1999年にNIHで大幅な予算増となったのはこのNCCAMと前立腺癌に対するものであり、米国における代替医療の取り組みかたが尋常でないことが窺える。CAM関連研究の大部分(80%)は、西洋の科学者にすでに広く受け入れられている分野、抗酸化剤や食事療法又は行動療法に向けられており、例えば鬱病の治療にオトギリソウの全抽出液を試す無作為化臨床試験等が行なわれている。さらに現在同センターは国内13力所の大学等の機関においてCAM関係のサポートを行っており、内訳はスタンフォード大学(老化関係)、ハーバード大学(内科関係)、カリフォルニア大学(喘息、アレルギー)、テキサス大学(癌関係)、コロンビア大学(女性の健康一般)、バスチール大学(HIV,AIDS)、ミネソタ大学(薬物中毒)、メリーランド大学(疼痛関係)、アリゾナ大学(小児科関係)、ミシガン大学(心血管系疾患)等々で、一つの研究に対して八五万ドル(約一億円)の予算が組まれているものもあるという。これらOAMの設立をきっかけに、全米の医科大学、医学研究センターなどの代替医療研究に国費の補助が行われてつつあるのが現状である。一方、医学校の学生の強い要望に答え、現在全米の医学校125校のうち少なくとも75校(60%)で、代替医療に関する講義も始まっている。

 ●米国成人の4割が代替医療を利用していた

 1993年、ハーバード大学のEisenberg博士らは、アメリカ国民がどのくらい代替医療を用いているかについての調査報告をNew EngIand Jounal of Medicineに発表した。その結果は、米国現代西洋医学の殿堂を揺り動かすほど衝撃的なもので、多くのマスメディアで取り上げられ、大変な話題をよぶこととなり、波紋は各国に広がった。この調査はハーブ療法、ビタミン大量療(megavitamins)、鍼、マッサージ、カイロプラクテイクなど16種類の代替療法に関する医療行為のみを対象に調査した。そして、これら代替医療を受けた人の数は予想をはるかに上回ることが判明したのである。調査によると、1990年の段階で16種類の代替療法のうち少なくとも1つを利用していた者は、米国成人のうち33.8%(6000万人)にのぼり、1997年の調査では利用率が42.1%(8300万人)と有意に上昇していた。さらに1990年の時点で、代替療法実施者の所への外来回数はのべ4億2700万回にも達していた。この数は、かかりつけのプライマリ・ケアの医師(primary care physician)への外来回数3億8800万回を超えるものであった。1997年の調査では、この差がさらに広がり代替療法外来回数がのべ6億2900万回とprimary care physicianへの外来回数3億8500万回を大きく上まった。そして、1997年の時点でアメリカ人は、代替療法に関わる総自己負担費として年間270-344億ドル(約3兆-4兆円)を費やしているというデータが示された。これは1997年の米国で支払われた通常医療費の総自己負担費用293億ドルに匹敵するか上回ることも判明した。1990年当時は、後述するようにまだ保険会社が代替医療を認知していない(保険を適用していない)ので、患者たちは自ら進んでその治療費を払っていたことになる。これらの事実が西洋現代医学の医師に与えたインパクトは大変大きかったと推察される。

 ●代替医療利用者は教育レベルの高い人に多い

 Eisenbergらの報告によると、もう一つ興味深いことが明らかとなった。それはこれまで代替医療を利用しているのは、「教養のない人たち」と考えられていたのだが、実際にはまったくその逆であることが明らかとなった。大学の教育を受けた者の利用事(50.6%)は、大学教育を受けていない者(36.4%)よりも高かった(p=0.001)のである。また、年収50,OOOドル以上の者の利用事は、それより収入の少ない者より高かった。すなわち保険にも入っているし、高収入で、市民としてアメリカを支えている中心層の人たちが、保険の効かない代替医療に関心をもっていてお金を払っているということがわかったのである。なお、年齢的には35歳から49歳の間の人たちに多く支持されており、性別では男性(37.8%)よりも女性(48.9%)の方が多く(P=0.001)利用していた。また、アメリカには移民が多いが、アジアからの移民の占める割合の大きい西部での利用率(50.1%)は米国の他の地域(42.1%)と比べると高かった(P=0.004)。

 ●代替医療の6割が医師に相談なく実施されていた

 Eisenbergの1997年の調査により、かかりつけの医師に代替療法の利用を打ち明けたの40%未満(38.5%)であった。また、ほとんどの代替療法が代替医療治療者の指導を受けずに利用されているとすると、46%が自分の判断のみで代替療法を行っていたことも判明した。これは、医師と患者の関係が不十分であることを示しており、今後は、医師からは尋ねない・患者は話さないという現状を打破し、責任ある対話を展開する専門的な戦略が必要であると考察している。

 ●JAMA Patient Pageに代替医療が登場

 米国医師会の機関誌であるThe Joumal of the American Medical Association(JAMA)が昨年1998年に代替医療の特集(Vo1279-280)を組んだことは記憶に新しい。1998年度に米国医師会が最も力を入れて取り上げたいトピックの一つに代替医療が入ったのである。JAMAの特集で最も関心を引いたのはJAMA Patient Pageである。これはJAMAとAMAの公共サービスのためのぺ一ジであり、医師達が自分の患者にコピーして配ってもらうために作成されているものである。題名は「aiternative choices : what it means to use nonconventional medical thrapy」で、まず前述したEisenbergらの調査結果が簡略に記載され、代替医療の安全性・効果・質・費用などについての注意事項とともに医者に必ず相談する様すすめている。また、その中で医師は通常医学はもちろん患者が利用しているいかなる代替医療についても熟知しておく必要があると記載している。このぺ一ジに記載されている代替医療としてはハーブ療法、鍼、アロマセラピー、カイロプラクテイク、家庭医学、等が挙げられていた。

 ●ASCOで代替医療のシンポジウムが開催

 代替医療は米国の癌学会でも大きく取り上げられつつある。本年5月にASCO(American Society of Clinical Oncology)の第35回Annual Meetingがアトランタで開催された。そのsatellite symposiumに「Alternative and Complementary Therapies and Oncologic Care」と題してASCOとAmehcan Cancer Societyのjoint symposiumが開かれた。内容は総論的なものが多かったが、現代西洋医学と代替医学が接した意義は大きい。

 ●米国では代替医療に保険が適用され始めた


 アメリカでは中間階級以上は私的保険に入っている。公的保険としては65歳以上の人々と身体障害を持つ特定の者に与えられる「メディケア」(medicare)と老人・盲人・障害児を持った成人、妊婦を含む低所得者に対し連邦と州が協力して行う「メディケイド」(medicaid)とがあるが、何らかの理由で医療費の給付を受けられない人が6000万人程度いるという。アメリカ政府はこれら公共健康保険財源の枯渇を懸念して、「民間の健康保険へ移行する」よう呼びかけているという。これが大きな社会的動きになって、全米の健康保険組合が代替医療を給付対象にし始めている。給付対象の中心になっているのはカイロプラクティックと鍼灸治療である。

 ●まとめ

 現在米国医師会では、代替医療をきちんと科学的に調査するべきであるという考え方に移り変わりつつある。また、各医師は自分の患者がどんな代替医療を使っているかという情報を得、医師自体が代替医療についての教育を受けて、科学的裏付けのある評価をしながら患者治療に当たらなければならなくなっている。さらに、実際的な治療を行う施設や、安全性と治療の効能についての情報をいつでも入手できるようにしようという準備も始まっている。また、英国ではチャールズ皇太子の提案で、代替医療研究プロジェクトチームが作られ、統合医療の五カ年計画を立て、国家レベルで代替医学研究に取り組みはじめているという。このように代替医療は欧米が先駆していると思われるかもしれないが、実は日本が代替医療を最もよく実践している国だという見方もできる。日本では古来より漢方薬を使用してきた歴史があり、また世界的に見ても漢方薬を保険薬と認めている数少ない国の一つなのである。また、鍼灸、柔道整復などの東洋医学も保険適用となっており、多くの患者が日常的に利用している。一方、アメリカにおいて鍼が医療器具として認められたのはつい数年前のことである。しかし、我が国においては厚生省をはじめ、公私立の研究機関も、アメリカのような大規模な調査は行なっておらず、我が国にどんな治療法があり、それそれがどんな特長を持つのか、どんな実績があり、どれほど研究されているのか、それを誰に聞けば教えてもらえるのかなど、肝心なことがほとんど分かっていないのが現状である。さらに、代替医療に取り組む政府機関や代替医学講座を持つ大学はないので、この点に関しては欧米に比しずいぶん遅れているのかもしれない。自らの責任で病気予防をし、治療法を選ぶ「医療ビッグバン」の時代を迎えるなかで、今、患者のみならずわれわれ医療関係者にも確かな選択の目が求められているともいえるだろう。

[出典: 第2回日本代替医療学会学術集会要旨集]