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インフォームドコンセント
「インフォームド・コンセントの在り方に関する検討会」は、第1回を平成5年7月20日に開催し、平成7年6月12日まで12回にわたる会議を行い、その内容を報告書として取りまとめた。以下にその報告書の内容を掲載します。
インフォームド・コンセントの在り方に関する検討会報告書


(1)インフォームド・コンセントの基本理念

 インフォームド・コンセントには、(1)医療従事者側からの十分な説明と(2)患者
側の理解、納得、同意、選択という2つのフェーズがある。すなわち、インフォ
ームド・コンセントとは、幅広い内容を含むものであって、単に医療従事者が形
式的な説明をすることでもなければ、患者のサインを求めるものでもないという
ことである。
 まず、第1のフェーズにおいては、医療従事者側から患者の理解が得られるよ
う懇切丁寧な説明が、あらゆる医療(検査、診断、治療、予防、ケア等)の提供に
おいて必要不可欠であることが強調されるべきである。この際、医療従事者から
は医学的な判断に基づく治療方針等の提示を行うことが求められるが、患者の意
思や考え方に耳を傾け、それぞれの患者に応じたより適切な説明とメニューの提
示がなされることが必要である。
 健康診断における検査や予防接種など保健分野においても十分な説明が必要で
ある。
 第2のフェーズにおいては、患者本人の意思が最大限尊重されるのが狙いであ
って、患者に医療内容等についての選択を迫ることが本来の意味ではない。また、
文書で患者の意思を確認することは、1つの手段として重要であるが、目的では
ないことを理解する必要がある。
1  日本にふさわしいインフォームド・コンセントの目的と理念
 わが国におけるインフォームド・コンセントは、米国で反省されている患者の
権利の主張と医療従事者の責任回避という対立的側面でとらえるべきではなく、
より良い医療環境を築くという基本的な考え方に基づくものでなければならない。
すなわち、自己の権利のみを主張する患者や、形式的に患者の同意を得ようとす
る医療従事者を想定したものではなく、懇切丁寧な説明を受けたいと望む患者と
十分な説明を行うことが医療提供の重要な要素であるとの認識を持つ医療従事者
が協力し合う医療環境を築くことが目標なのである。
 言い換えるなら、インフォームド・コンセントを成立させるためには、医療現
場における患者と医療従事者の関係を上下関係や対立の構図で考えるのではなく、
相互の立場を尊重し、相互の理解を深める努力が必要であり、究極において、患
者のクオリティ・オブ・ライフ(生活と人生の質)の確保・向上を目的とした質の高
い医療を達成しようという考えが必要である。
 インフォームド・コンセントとは、医療に制約を加えようとするものではなく、
医療従事者の知識と技能を最大限に発揮するための環境づくりであり、医療行為
の基本的な要素であり、態度であると言える。
2  具体的な在り方
 まず、医療従事者側の基本的な態度として、検査内容、診断結果、治療方針、
見通し、投薬内容等についての十分な説明が求められる。この説明には、単に病
名や病状、予後といったものだけでなく、検査や治療行為に伴って生じる生活上
の変化、療養のために利用可能な各種の保健・福祉サービスについての情報、か
かる費用等についても含まれる必要がある。
 特に込み入った説明を意識する必要がない疾患もあるが、その場合でも患者の
不安を取り除く努力は怠ってはならず、この意味においていかなる疾患において
も基本的な考え方は同一であるといって差し支えないであろう。
 また、説明する際には、患者の年齢、理解度、心理状態、家族的社会的背景を
配慮し、説明の時期については、患者の要望、信頼関係の構築、患者の受容にか
かる期間、患者の不安除去の観点を考慮して、できるだけ早い時期に行われるこ
とが重要である。さらに、必要に応じて説明の文書や疾患別のガイドブックを用
いることや、繰返し説明することが必要である。
 医療従事者は患者が説明した内容を十分に理解したかどうかに注意を払うとと
もに、患者の側にも知りたいことを遠慮なく申し出るといった態度が必要である。
 「何が起こっても不服の申し立てをしない」といった手術等における慣習化した
同意書は、医療従事者側の自己防衛的な性格が強く、十分な説明とそれに基づく
同意とはかけ離れたものであり、この報告書が目指しているインフォームド・コ
ンセントに該当するものではない。
3  特別に種々の条件を考慮することが求められる例
 (1)インフォームド・コンセントを成立させる要因として、病名そのものの告知
が問題になることがあり、次の事例については、特に配慮すべきである。
○がん医療
 多くの医療従事者が経験する疾病で最も問題となるのは、がんについてであろう。
インフォームド・コンセントが困難である理由の1つとして、がん特に難治性の
場合の告知が困難であることを挙げる人が多い。
 平成6年度の人口動態社会経済面調査(末期患者への医療)における亡くなった
患者の介護者に対する調査によると、本人が病名を「告げられて知っていた」が2
0.2%と5人に1人であり、告知がまだ一般的でないことを示している。しか
し、「知らせなかったが察していたと思う」をあわせると64.0%が自分の病名
を知っていたと報告されていることや、国民の意識としても、知らせて欲しいと
思う者が増加する傾向にあることから考えると、がん医療においては告知やイン
フォームド・コンセントが実現し得ないとするのは適当でなく、告知の意味と意
義を理解し、個々の患者の意思と状況を勘案しつつ、告知の可能性を追求する姿
勢が必要である。もちろん、一律に告知すべきだというのではなく、また、告知
を受けたくないという患者に対する配慮も必要である。
 告知については、「末期医療に関するケアの在り方の検討会報告書」(平成元年)
において示された4つの条件((1) 告知の目的がはっきりしていること、(2)患者に
受容能力があること、(3)医師及びその他の医療従事者と患者との間に十分な信頼
関係があること、(4)告知後の患者の身体面及び精神面でのケア、支援ができるこ
と)への配慮が必要であることは言うまでもない。
○HIV感染症/AIDS医療
 HIV感染症/AIDS医療においては、感染検査の際の任意性が重要である
とともに、他人に感染させる危険があること、発病後の予後が不良であるという
特性があることから、告知することが求められるが、がんの告知と同様に告知後
のサポートが必要であり、その充実が求められる。
(2)次に、患者に文書を示して説明を行うとか、文書により患者の同意を確認す
ることが求められる場合がある。具体的には、生命の危機にかかわる疾患、末期、
リスクの高い医療、遺伝疾患等である。
 患者は、重篤な病気である旨の告知やリスクの説明等を受けた場合に、精神的
なショックを受け、その場で内容を理解したり判断することが困難であることも
多い。このため、医療従事者は精神面でのケアやサポートに配慮した上で、口頭
で説明するとともに文書を示して十分な理解を得る努力と、患者の意思の確認の
ために文書を用いることが適切である。
(3)また、なんらかの理由で理解能力や同意能力が問題となる場合、例えば、精
神科医療、小児、痴呆性老人、救急医療等で意識障害がある場合、あるいは日本
語の理解が困難である場合については、医療従事者からの説明や患者の意思の確
認について特別な要素を考慮しなければならず、それぞれの特性に見合った適切
な対応が求められることから、今後問題に応じた更に具体的な検討が望まれる。
(4)遺伝子治療、新薬の治験等、新しい治療法の開発を目指す臨床研究的な性格
を含む医療の場合には、特にインフォームド・コンセントが重要であり、目的、
安全性、予期される効果及び危険性、他の治療方法の有無及びその内容、同意し
なくても不利益を受けないこと、同意しても随時これを撤回できること等について、
医療従事者から十分な説明を行い、患者の自由意思に基づく同意を得ることが不
可欠である。そのためには、文書による確認が必須であり、この際患者等が十分
理解できるような説明文と同意の文書を合わせた形式の文書にすることで、説明
の内容を患者がゆっくり理解したり、同意の意思を示した後でも説明内容を患者
と医療従事者相互が再度確認することも可能となることから、この「説明・同意文
書」の普及が望ましい。
 なお、新薬治験におけるインフォームド・コンセントについては、別途医薬品
の安全性を確保するという観点から検討が行われている。

(2)法制化について

1 インフォームド・コンセントを一律に法律上強制することについて
 インフォームド・コンセントの普及・定着をより積極的に図るため、インフォー
ムド・コンセントの実践を法制化すべきであるとの見解もあり得よう。確かに、
医療が患者と医療従事者相互の信頼関係に基づいて提供されるべきであって、相
互の信頼関係の構築にインフォームド・コンセントが重要な役割を果たすことに
ついては、医療従事者側においてもコンセンサスが得られつつあり、判例におい
ても、法律上の説明義務を認めたものも存在する。
 しかし、個々の患者と医療従事者との関係において成立するインフォームド・
コンセントについて、画一性を本質とする法律の中に適切な内容での規定を設け
ることは困難であり、また、一律に法律上強制する場合には、責任回避のための
形式的、画一的な説明や同意の確認に陥り、かえって信頼関係を損なったり、混
乱させたりするおそれもあることから、適切ではない。


2  インフォームド・コンセントを理念規定に位置付けることについて
 法律による強制が適切でなくとも、より良い医療や患者と医療従事者との信頼
関係の向上を目指すために、あるいは、インフォームド・コンセントの実現を図
る環境整備の推進のためにも「インフォームド・コンセントを実施すべきである」
という趣旨を理念規定に位置付けるべきだとする意見もあった。
 一方、インフォームド・コンセントの普及は、医療現場における個々の患者・医
療従事者の実践の積み重ねによって図られるべきものであって、法律への位置付
けによって推進することは、現時点では必ずしも適切とは思われないとする意見
もあった。
 本検討会では一致した見解をまとめることはできなかったが、医療法の医療提
供の理念の中に、医療従事者の努力目標、努力規定として位置付けることについ
ては、更に幅広く関係者の意見を踏まえた上で一層の検討が行われることを期待
している。

(3)環境整備の必要性

 疾病や病状に応じた適切なインフォームド・コンセントを普及・定着させるため
には、様々な医療環境の整備が必要であり、関係者が身近なところから取り組ん
でいく姿勢が重要である。
 まず、より良い医療の提供に資するインフォームド・コンセントを実現させる
ためには、医療従事者側と患者・家族、さらには健康者を含めた国民全体が、そ
れぞれの立場におけるインフォームド・コンセントの意味と意義を真に理解する
ことが前提であり、その上でお互いがこれを実践しようとする努力が不可欠であ
る。
 現在は、医療提供施設や地域によってインフォームド・コンセントの実践に向
けた取組みに少なからず違いが認められるが、様々なレベルでの情報交換や意見
交換を行うことにより、こうした取組みの違いを是正していくことが必要である
ことから、国や関係団体の積極的な関与によって、具体的な方策の実現に向けた
組織的、制度的な取組みの推進が是非とも必要である。

3 インフォームド・コンセントの普及のために(提言)

(1)医療従事者側の取組み

1  患者・医療従事者間のより良いコミュニケーション成立への努力
 医療従事者側には、診断と治療方針の明確な説明、予想されるリスク、必要に
応じて具体的な選択肢の提示ができる能力と問題意識が求められ、患者・医療従
事者間のより良いコミュニケーションを成立させることが必要である。具体的な
工夫としては、以下のような事項が考えられる。

・初診時に十分に時間をとって説明することや、検査の目的や内容について不必
 要な恐怖感を取り除くような説明の実施、さらには診断確定後早期の病気・病態
 の説明と患者本人の病状、予後の説明など、説明の内容や時期の工夫
・医学用語や外来語を用いない平易な言葉・表現による説明の工夫
・特に必要な場合には日や場所を変えて行うなどの説明時間確保の工夫
・プライバシーへの配慮のため、診察場所や相談場所の工夫
・患者が質問しやすい雰囲気作りの工夫
・必要に応じ、平易な解りやすい説明文を示し、その上で説明を加えるという説
 明方法の工夫

2  医療従事者間の共通認識の確保
 患者に関わる全ての医療従事者が認識と情報を共有することは、良好かつ適切
な患者・医療従事者関係を構築する上で重要であり、医療従事者相互の理解と信
頼関係、医療を共同で提供するという意識の高揚が望まれる。具体的な工夫とし
ては、以下のような事項が考えられる。

医療チームにおける役割分担と説明における同一性を確保するため、重要な説
明の段階では関係する医療スタッフを同席させること
説明文や同意書がある場合には診療録にこれを貼付すること
診療情報を全ての医療従事者間で共有するための情報管理の工夫

3  チーム医療の充実
 患者・家族に正確な説明を行う背景として、また、一貫、継続した説明とその
後のフォローを行うためにも、医療チームとしての診療の一層の充実と活用を進
める必要があり、病状の変化に応じた追加の説明や患者・家族への治療だけでな
くケアをも視野に入れた継続的なサポート体制の確立が必要である。

4  医療提供施設全体としての取組み
 個々の医療従事者の取組みを支援するためにも、医療提供施設全体としての組
織的な取組みも重要であり、例えば以下のような取組みが期待される。

倫理委員会、院内研究会や勉強会等の活動の充実による、医療従事者がインフ
ォームド・コンセントを重視するような体質づくりの推進
「診療や投薬の内容等についてのご質問があれば、遠慮なくお尋ねください」と
いった院内掲示の実施
患者・家族がいつでも、診療科に関係なく尋ねることができて、責任を持って対
応してくれる医療提供施設内の相談窓口の設置
患者や家族が自分たちの疾患についての情報を得る機会の確保のために施設内
に患者向けの図書館等を設置する等の工夫
医療提供施設と患者のコミュニケーションの推進を側面から支援する院内の患
者に対するインフォメーション、例えば患者・一般向けのパンフレットの作成、
院内掲示や院内放送の実施


(2)組織的、制度的な取組み

1  卒前・卒後教育の充実
 医療従事者にとって患者と良好な関係を持つことは、インフォームド・コンセ
ントを成立させるための基本的な事項である。このために医療従事者に対する卒
前・卒後教育において、医療従事者の患者とのコミュニケーション等についての
教育、研修のより一層の充実が求められる。具体的には、以下の項目について早
急な対応が望まれる。

卒前教育における患者とのコミュニケーション能力育成のための教育の一層の
充実
国家試験等における患者とのコミュニケーション技術の評価法の検討
卒後臨床研修における具体的な到達目標の設定とその評価法の検討

2  医療従事者からの効果的な説明方法の確立及び説明資料の充実
 医療従事者から患者への説明の方法については、疾患の種類や特性別にその在
り方を探り、適切な説明方法の普及が図られることが必要である。具体的には、
学会や医療団体等の努力と国等の支援により、以下の研究・検討や資料の作成・普
及が望まれる。

どんな時期に、誰が、何を、どうやって説明するのが効果的であるのか等具体
的な説明の在り方についての研究
疾患別・治療法別の患者・家族のためのガイドブック、解説ビデオ等の説明資料
の作成・普及
精神科医療、小児、痴呆性老人、更に救急医療等で意識障害がある場合等にお
ける、医療従事者からの説明方法や患者の意思の確認方法等についての検討
望ましい説明と同意の文書(モデル)の検討

3  普及・啓発
 望ましいインフォームド・コンセントの普及・啓発のために、国等の行政機関の
以下のような事業の実施が望まれる。

一般向けの広報文書の作成・配布
医療従事者や国民向けのシンポジウムの開催
先進的な取組み施設を紹介する事例集の作成
医療従事者向け研修会等の開催
医療提供施設に環境整備の重要性を認識させるための管理者向け研修会の開催
環境整備を支援する方策として、相談窓口等の設置に伴う施設整備に対する補
助や普及モデル事業の実施

 医療関係職種の職能団体、医療関係団体等の取組みとしては、具体的に以下の
ような事業の展開が望まれる。

特定の疾患を持つ患者・家族向けのセミナーや説明会などの開催
学会等による疾病情報の提供サービスの充実
疾病や治療法、薬剤をわかりやすく説明する地域レベルの相談窓口の設置


(3)患者・家族、国民に望まれること

 日頃の健康管理や病気になったときの医療の受け方は、本人の生き方に直結す
る問題である。治療や療養における様々な選択が可能となっている中で、どの様
な選択をするかは、あくまで本人の希望と意思なのだという自覚が必要であろう。
国民が心得ておいて欲しいこととして、次のような呼びかけをしたい。

日頃から心身両面の健康や医療について関心を持ち、知識を豊かにしておく。
病気になった時どのような医療を受け、どのような生き方を選ぶかについて、
日頃から自分の意思を持つとともに、家族と話し合っておく。
特に、がんの告知、末期における延命措置、植物状態・脳死になったときに受け
る医療、臓器提供等については、事前の意思を明確にしておくことが望まれる。
これからの時代は、文書によるリビング・ウイル(事前の意思表明)が重視される
ようになろう。
自らの病状や予後、検査の目的・内容・結果、治療の目的・内容・展開・
期待される効果・副作用等について、遠慮なく医療従事者へ尋ねる態度を身につける。
より良い医療を受けるには、自分の生活や生き方について、医療従事者に理解
してもらう必要がある。そのためには、平素のヘルスケアをも担当するかかりつ
け医を持つことが望ましい。
患者会や家族会に参加して、情報や生きる支えを得る道もある。


4 おわりに

 本検討会は、医療環境の変化を背景に、平成4年の医療法改正時の国会での議
論を受けて設置されたものであり、より良い医療の基盤づくりのための新しい患
者・医療従事者関係の在り方を求めて議論を重ねた。
 インフォームド・コンセントは、そうしたより良い患者・医療従事者関係を築く
ための基軸となるものであるという点で、委員の考えは一致した。
 この報告書は、そのような意味を持つインフォームド・コンセントの普及のた
めに、「誰が」「何を」すべきかという具体的な方策を明確にすることを目指してま
とめられた。一番大事なことは、患者が自らの状況を認識して前向きの闘病と生
き方を自覚することであり、医療従事者が専門的職業人として患者の生き方のよ
り良い支援者となることに生きがいを感じることである。すなわち、患者も医療
従事者もともに生きることへの元気の出るインフォームド・コンセントの定着こ
そ、この報告書の目指すところなのである。この報告書に沿った積極的な関係者
の取組みを期待したい。


インフォームド・コンセントの在り方に関する検討会名簿(50音順)

井部俊子(聖路加国際病院副院長・看護部長)
榎本昭二(東京医科歯科大学歯学部教授)
ロザンナ・加藤(歌手)
垣添忠生(国立がんセンター中央病院長)
上坂冬子(作家)
坂上正道(北里大学客員教授)
白男川史朗(日本医師会副会長)
全田浩(信州大学医学部薬剤部教授)
竹中浩治(厚生年金事業振興団理事)
根岸昌功(都立駒込病院感染症科医長)
二川俊二(順天堂大学医学部教授)
松尾浩也(上智大学法学部教授)
森嶌昭夫(名古屋大学法学部教授)
○柳田邦男(評論家)
山崎敏雄(前日本精神病院協会副会長)

○座長

1 はじめに

(1)本報告書の目指すところ

 「医師が一方的に決める時代は終わった」「何のクスリをのまされているかわか
らないという時代は終わった」・・そう言えるような新しい医療の在り方に向か
って、いま、日本の医療が大きな転機を迎えている。
 その転機を推進するキーワードとして、インフォームド・コンセントがある。
 だが、この用語は、いまひとつ人気がない。「3分診療という現実の中で十分
な説明は無理だ」「説明しても理解できない患者が多い」「米国のように医師が自
己防衛的になるだけだ」といった否定的な反応が、医師たちの間から聞かれるの
である。
 それでは患者も医療従事者もともに元気が出ない。もっと前向きに考えられな
いのだろうか。高齢社会を迎えて慢性病が多くなるとともに、医療技術が進んで
診断法も治療法も多様化・複雑化している中で、より良い医療の提供と積極的な
闘病の姿勢を確保するには、患者と医療従事者の間に新しい関係が作られなけれ
ばならないはずである。患者は病気の性質と治療方針をしっかり理解してこそ、
自分なりの前向きの生き方を選ぶことができよう。医療従事者は患者の積極的な
協力を得てこそ、最善の医療を実践することができよう。
 このように、患者も医療従事者もともに元気が出るような新しい関係を作るい
わば鎹(かすがい)として、インフォームド・コンセントを位置付けようというの
が、本検討会の委員の一致した考えである。つまり、インフォームド・コンセン
トとは、医療に制約を加えようとするものではなく、より良い医療と生き方を追
求するのに必要な手段なのである。その意味で、インフォームド・コンセントと
はもともと医療の中核をなすものとしてとらえるべきなのである。
 今求められているのは、「無理だ、できない」という消極的な姿勢から、「どう
すればできるか」という積極的な取組みへの発想の転換である。ここに記すのは、
本検討会の委員が平成5年から7年にかけて12回にわたって議論をした論点と
導き出された提言をまとめたものである。本報告書を出発点にして、医療従事者
と国民のインフォームド・コンセントへの理解が深まり、より良い医療と闘病へ
の取組みが進展することを期待したい。


(2)インフォームド・コンセントの訳語について

 「Informed Consent」の内容を表す訳語についても議論した。「説明・理解
と同意」「説明と理解・納得・同意」「(医療従事者の)十分な説明と(患者の)理
解にもとづく同意」「医療を受ける側に立った説明と同意」「説明と理解・選
択」「十分理解した上で自分で決定すること」等様々な提案がなされ、それぞ
れに意味と背景があり、どれか1つの訳語に絞ることはできなかった。
 本検討会では強いて訳語を作るよりは、「インフォームド・コンセント」という
原語のままの用語を用いることにした。
 この用語には幾つかのプロセスが内包されていることや、信頼関係の構築とい
う側面と医学的な説明という知的、論理的な側面を持つこと、患者側からの思い
と医療従事者側からの思いの違い、病状や病気の種類による差異などが存在する
ことを現状として理解しておくことが必要である。

2 インフォームド・コンセントの基本的な考え方