行政訴訟の現場からW


横浜地裁H12.2.21(判例地方自治205号19頁)


 毎年5月になると、固定資産税の納付書が送られてくる。

 固定資産税は地方税であり、市町村が課税する。地方分権の最重点課題として地方税源の拡充が地方から唱えられているが、その前に、その地方税のあり方を考えてみたい。

 今回は、固定資産税の関係で目に付いた判例を取り上げる。


 この事案は、平成10年11月に父親が借金をかかえて死亡したので、その相続人は翌平成11年1月に相続放棄をした。

 ところが、それに先立つ平成10年12月中に、父親の債権者が父親名義の不動産を仮差押するために、債権者代位によって法定相続人名義で共同相続登記をした。そのため、平成11年度の固定資産税の賦課期日である平成11年1月1日現在の所有名義人である法定相続人らに固定資産税が課税されてしまったというものである。

 民法によれば、相続放棄によって法定相続人は遡及的に遺産を相続せず不動産も所有しなかったことになるから、父親の債権者による共同相続登記も無効となる。したがって、本件賦課処分は取り消されるべきであるというのが、民法の理屈である。

 常識的に考えても、不動産が法定相続人名義になったのは、債権者が仮差押をするために、法定相続人の全く預かり知らないところでなされたことであるから、そのことの故に法定相続人が課税されるのは、納得ができない。

 ところが、この横浜地裁は、地方税法は賦課期日に課税台帳に登録されているものが納税義務者と定められており、課税庁には課税要件を満たす場合に租税を減免する自由はないし、賦課期日の所有名義人に税を減免する旨の明文の規定はなく、私法上の所有権争いの裁定を課税庁が行うのは円滑な徴税事務の進行を妨げるおそれがあり、法定相続人らの不利益は真実の所有者に対する不当利得返還請求によって負担の調整ができるという理由で、法定相続人の請求を退けた。


 この横浜地裁の判決は、何もこの裁判所独自の見解ではなく、これまでの裁判例は同様の判断を示している。

 しかし、あまりにも課税庁の利益のみを重視しているのではないか。このような判決は、到底市民の納得できるものではない。そもそも、この判決の最後にいう「負担調整」という見地からすれば、相続放棄した物件は最終的には国庫に帰属するのであるから、国が固定資産税を負担すべきではないのか。徴収を免除しても何ら問題はないというべきであろう。

 税源が国税から地方税に替わるというのであれば、より住民に身近な税金になるのであるから、その賦課徴収にあたっても、より住民に身近で、住民の納得できる運用を期待したものだ。それがないのであれば、地方税源の拡充と言っても、住民には何のメリットもないことになる。(01/7/29記)

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