行政事件訴訟法改正問題

05/12/30更新

皆さんも、行政訴訟制度がどうあるべきか、一緒に考えてみませんか。

CONTENTS

@京都大学任期制教員再任拒否事件(井上事件)大阪高裁不当判決!(05/12/30)

 任期付大学教授の再任拒否をめぐる初めての高裁判決である。現在、大阪高裁第9民事部と第11民事部の2か部に事件が係属している。平成17年12月28日、第11民事部で判決の言い渡しがあった。

 処分性の有無(行政事件訴訟法の取消訴訟の対象に当たるかどうか)が争点であった。行政事件訴訟法の改正もあり、また最高裁も徳州会病院事件判決(H17.7.15二小判、同10.25三小判)に象徴的に見られるように処分性の判断を緩和しつつあったから、地裁の訴え却下判決の見直しは必至であろうと予想していた。

 ところが、あにはからんや、高裁でも処分性なしとの判断で控訴棄却となった。判決文を見ても、地裁判決の上塗りで控訴審での実体審理や私たちの主張が全く考慮されていないものだった。申し訳ないが、高裁の裁判官は私たちの書面を全く読んでおらず(判決文記載の控訴人の主張の要約は理解不足を自認している。)、行政法の解釈論も全く知らず、行訴法改正があったことも最高裁判例の動きも全く理解していないとしか言いようのないものだった。およそ私たちが裁判所に何を求めているのかに真正面から答えていない内容であり、極めて不当な判決であった。

 そこで、私たちは即日、最高裁に上告兼上告受理申立の手続をとった。

)事件の内容

2)大阪高裁第11民事部判決

A私と行政訴訟との係わり(05/8/16更新) 私の行政訴訟の「経歴」です。

 私と行政訴訟との係わりU 廃棄物関係(04/5/4更新)

    ※ 4年3月、業許可取消処分取消訴訟は福井地裁で勝訴判決が出ました。しかし、福井県はこれに控訴しました。地裁でも証人調べをしなかったのに、高裁では、業者代表者を含めて3人も尋問を行いました。廃掃法は、解説書も少ないだけに裁判所の理解にも不十分なところがあります。裁判所には、行政のしたこと、行政解釈に追随するのではなく、あるべき法解釈を示すことを期待したいものです。ところが、あろうことか、高裁判決は、2月に結審した後、再三に渡って判決言い渡し期日を延期したあげく、05年8月29日、業者敗訴・行政追随の逆転不当判決を言い渡しました。行政正当化の理屈を半年もかかって考えていたわけです。廃掃法の改正のことなどよく分からないままに、福井県内では大手の排出事業者東洋染工のいうとおり契約書を作ってマニフェストも交付していたのに、契約書やマニフェストの記載誤りの責任を全部押しつけられ、挙げ句の果てに産業廃棄物処理業の許可を取り消されたばかりか、生業であるごみ清掃業の仕事まで地元金津町(現あわら市)から取り上げられ、裁判所だけは分かってくれると思っていたのに、高裁ではけんもほろろの逆転敗訴。まじめな業者の半泣きの顔を思い出すにつけ、行政・司法に対する怒りがふつふつと沸いてきます。おって詳細をお伝えします。

 私と行政訴訟との係わりV 県職員昇格差別事件(03/12/6)

     ※ 4年3月、福井地裁で敗訴判決が出ました。判例地方自治05年9月号に掲載されました。

B行政訴訟の現状を判例雑誌に掲載された具体的な事例を通して見てみます。 

 行政訴訟の現場からT(00/9/4) マンション開発

 行政訴訟の現場からU(00/11/6) 砂利採取計画

 行政訴訟の現場からV(00/11/19)土地区画整理事業

 行政訴訟の現場からW(01/7/29) 固定資産税

 行政訴訟の現場からX (01/7/29) 公有水面埋立

 行政訴訟の現場からY (03/12/6) 産業廃棄物処理業不許可処分

 行政訴訟の現場からZ(04/5/4) 入札排除住民訴訟

C行政訴訟の現状とこれからの課題 (2000/2) 行政訴訟の現状を、個別的な事例を離れ、総論として論じてみました。『自由と正義』1999年5月号に補筆したものです。 

D行政事件訴訟法の改正試案要綱案  (00/10) 日弁連司法改革センター第3部会行政事件訴訟法等改正推進協議会で取りまとめた改正試案要綱案です。その特色は、訴訟要件を緩和して、行政訴訟の間口を広げるとともに、行政訴訟を専門に扱う行政不服裁判所を設置し、審理方法として裁判所による職権探知主義・職権証拠調べを導入し、かつ一般市民の審理への参加を認める陪審または参審制度の導入をうたったところです(行政訴訟における専門性と民主性の調和)。これは、日弁連の公式見解となることはありませんでしたが、私としては今回の法改正のさらに先にある改正像を呈示しているものと思っています。

Eドイツ行政裁判所視察 日本の行政訴訟が戦前に理想としたドイツは、今、どうなっているのでしょう?1999年8月に視察したハンブルグ、ブレーメン、ケルンの裁判所の視察記です。

F私(わたし)的な行政訴訟 (00/11/19) 2000年7月16日の自治体合同法務研究会の席上で述べた私の行政訴訟観です。私が行政訴訟をしていていつも思うこと、相手方当事者である行政のひとに理解してほしいと思っていることです。ちなみに、熊本県立大学石森教授からは共感のメッセージをいただき、当日出席しておられた職員の中にも「法的対話」というキーワードだけは印象に残ったようです。

G行政訴訟法が改正された!

第1 機能不全状態にある日本の行政訴訟

今、日本の行政訴訟は、大変いびつな、機能不全状態に陥っています。

 何が機能不全なのでしょうか?原告・市民の勝訴率が10%前後でしかないことは、機能不全の最たるものですが、私は、それよりも、行政が行政訴訟に真正面から取り組み、原告・市民に対して行政の適法性を真摯に説明しようとしないことー訴訟法自体がその説明懈怠を是認していることが最大の機能不全であると考えています。

 そして、この行政訴訟の機能不全状態を改善するためには、行政事件訴訟法を改正することが是非とも必要であると思っています。

第2 ついに行政事件訴訟法が一部改正された

 今国会は年金保険法改正で大変荒れましたが、その陰でこっそり、平成16年6月2日、行政事件訴訟法一部改正が成立しました。

 これは、司法制度改革審議会の平成11年12月21日の論点整理において、行政訴訟問題について、「裁判所は、統治構造の中で三権の一翼を担い、司法権の行使を通じて、抑制・均衡の統治体系を維持し、国民の権利・自由の保障を実現するという重要な役割を持つ。行政訴訟制度や違憲審査権行使のあり方については、従来さまざまな批判や提言がなされてきたところであるが、行政・立法に対する司法のチェック機能を充実させる方策について検討することが必要である。」と指摘し、「司法の行政に対するチェック機能の充実」を論点として掲記したことに始まり、平成13年6月の同審議会最終答申では、「司法の行政に対するチェック機能を強化する方向で」の行政事件訴訟法の見直しに言及され、「法の支配」のために「司法及び行政の役割を見据えた総合的多角的な検討を行う必要がある」ことが明記されました。

 その後、舞台は、政府の司法制度改革推進本部に移され、そこの「行政訴訟検討会」において論点の検討が行われてきて、平成15年10月には「行政訴訟制度の見直しのための考え方と問題点の整理(今後の検討のためのたたき台)」が示されました。

 今国会で成立した改正法も、このたたき台に沿って改正されたものです。簡単にその内容をご紹介しましょう。

1.取消訴訟の原告適格の拡大

 たとえば、廃棄物処理法に基づくごみ処理場設置許可処分やそれを都市計画地域内に建築することを許可する建築基準法51条但書の許可の取消を周辺住民が求めることが許されるか、というのが原告適格の問題です。現行法9条1項は「処分又は裁決の取消を求めるにつき法律上の利益」と規定しているのですが、最高裁判所はこれを「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう」と解釈するため、周辺住民は原告適格がないとされてきました。

 それに対して、改正法は、その条文は残したまま、同条2項に「裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。」という条文を追加することによって、原告適格を拡大することにしました。

 すなわち、当該処分の根拠となる法令の規定の文言、当該法令及び当該法令と目的を共通にする関係法令の趣旨及び目的、当該処分において考慮されるべき利益及び当該処分によって害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度の内容及び性質を考慮して法律上の利益の有無を判断するということになりました。

 これを先ほどのゴミ処理場の設置に関する建築基準法51条但書許可処分を例に取ると、次のようになります。

 処分の根拠法規たる建築基準法は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて国民の生命、健康及び財産の保護を図ることを目的とするところ、51条は、集団規定たる用途規制(都市計画区域をゾーニングし、特定の地域には特定の用途の建築物しか許さないとする面的規制)の中で「汚物処理場、ごみ焼却場その他の処理施設」はその周辺の生活環境に与える影響が大きいことに鑑み、通常の用途規制とは別に都市計画の中でその敷地の位置が決定されている場合にしか新設・増設を認めないこととして、都市施設の周辺生活環境の保全を図ろうとした。

 関係法令たる都市計画法は、都市の健全な発展と秩序ある整備を図ることを目的とし、都市計画基準として「都市施設は土地利用、交通等の現状及び将来の見通しを勘案して、良好な都市環境を保持するように定める」ものとし、「当該都市の特質を考慮して」「土地利用、都市施設の整備及び市街地開発事業に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを一体的かつ総合的に定めなければならない。この場合においては、当該都市における自然的環境の整備又は保全に配慮しなければならない」と定めている。51条但書許可をする際には都市計画審議会の議を経なければならないこととされているが、都市計画審議会の判断基準として施設の必要性、都市計画との整合性、立地環境、交通対策、周辺地域への配慮(地元の同意があることが望ましい)との5点が示されたが、都市施設の周辺生活環境への配慮が求められている。

 関係法令たる廃掃法は、廃棄物処理施設設置許可基準として悪臭発散防止構造等が必要とされ、「周辺地域の生活環境の保全について適切な配慮がなされたものであること」が求められ、周辺地域生活環境影響調査報告書の添付が必要とされ、一定のものについては縦覧・利害関係者による意見書提出が可能とされている。

 周辺住民は、ごみ処理場の設置により悪臭、大気汚染、交通騒音等の被害を受ける。具体的には、たとえば、ごみ処理場の敷地予定地は工業専用地域であるが、その周囲は国定公園に指定されており、その境界付近に近い。都市計画マスタープランでは、当該地域は海岸風景を大切にし、背後の山々と調和した自然豊かなまちづくりを進めることにある。施設のわずか400m足らずのところには集落があり、民宿、料理旅館、飲食店や海産物店もある。海風と地形の影響で周辺集落には悪臭や大気汚染の被害が及びやすい。

 果たして今回の法改正によってごみ処理場の周辺住民に建築基準法51条但書許可取消訴訟の原告適格が確実に認められることになるのかは不明ですが、国会審議では、環境に関する公有水面埋立免許や都市計画に対しても原告適格が広がるだろうという答弁がなされていますし、参考人として意見陳述した塩野教授(検討会座長)は定期券購入者による近鉄特急料金認可取消訴訟も原告適格は認められると述べています。

2.義務づけ訴訟

 義務付けの訴えは、従前からも法定外抗告訴訟として判例上一定の場合に限り認められていましたが、今回明文で認められることになりました。@a行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき、または@b行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき、A一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれ(この判断に当たっては、「損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする」とされています)があり、Bかつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる。」ことにされました。

 これは、たとえばごみ処理場設置を例に取れば、廃棄物処理業者が設置許可申請に対して許可すべきことを求める場合が先のbの場合であり(なお、この場合は、許可申請をした者が不作為違法確認訴訟や不許可処分取消訴訟等と一緒に提起することが条件となります)、周辺住民が処理場の許可取消処分や廃棄物除去命令の発動を求めるのが先のaの場合です。

 義務づけ訴訟は、@の要件である「行政庁がその処分若しくは裁決をすべきであることがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分若しくは裁決をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるとき」が認められるかどうか(従来、三権分立、行政庁の第一次的判断権というドグマに引きずられて、行政には要件認定の裁量や権限発動の裁量があるとされてきましたが、今回の法改正でもこのドグマに対する手当はされていません)がまず問題になりますし、その要件をクリアーしても、ABの要件もあるため、実際問題として認容されるケースは少ないのではないかという気がします。

 しかし、たとえば、大学の任期付教官として任用された者が任期満了再任申請において任命権者の明らかな権限濫用のために再任拒否をされたときに、その再任拒否処分の取消とともに再任処分の義務づけを求める場合は認容されることになると思われます。

3.差止めの訴え

 差止訴訟も、従前、法定外抗告訴訟として判例上一定の場合に限り認められていましたが、今回、明文で認められることになりました。その要件は、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないことが当該法令の規定から明らかと認められるにもかかわらずこれがされようとしている場合、A当該処分又は裁決によって重大な損害を生ずるおそれがあって(この判断にあたっては、損害の回復の困難の程度を考慮し、損害の性質及び程度並びに処分又は裁決の内容及び性質をも勘案するものとされています)、Bその損害を避けるために他に適当な方法がないときに限り、行政庁が当該処分又は裁決をしてはならない旨を命ずる判決が認められます。
 ただし、私個人の感想としては、差止訴訟はやはりハードルが高いのではないかという気がしています。

4.仮の義務づけ・仮の差止め

 義務づけ訴訟・差止訴訟に対応した保全処分の規定で、民事訴訟でいえば、仮の地位を定める仮処分に対応します。生活保護の受給決定の義務づけ訴訟や減額・廃止処分の差止訴訟にあわせて提起するのがその典型例ですが、「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要」があることが要件とされますので、生活保護のような給付行政では認められる余地が少ないのではないかと思われます。

5.取消訴訟の対象(いわゆる処分性)

 現行法では、取消訴訟の対象となるのは、行政庁の法令に基づく行為のすべてではなく、「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。」とするのが最高裁判所の判例ですので、都市計画等の計画等は処分性がないとされ、再任拒否も処分性がないとされています。

 改正法では、この点の手当はせずに、「確認訴訟」を設ける(処分性がない場合であっても、当該行為又はこれに後続する行為などによって損害を受け、又は損害を受けるおそれがある場合に、これらの行為に係る法律関係等の確認を求めることにより実効的な救済を図る制度を設ける)ことにより、処分性のない行政決定による不利益を救済する道を開こうとしました。それが「公法上の法律関係に関する確認の訴え」という形で明文化されました。

 これは、私なりに解釈すると、たとえば、公共事業の指名入札制度において指名停止を受けた場合、その後の公共事業の指名からは排除されますが、指名停止は処分ではないと考えられているため、現行法では、事後的に国家賠償訴訟を提起する以外に救済の道はありません。このような場合に指名停止の取消を求めるというのではなく、指名停止の違法であることの確認または指名を受けうる地位もしくは指名停止がなされていないことの確認訴訟を提起するということのようです。これは民事訴訟としての確認訴訟であると考えられますが、指名を受けうる地位や指名停止がなされていないことというのは、法律上の権利義務関係と言うよりは、事実関係に近いものであり、現行法では、確認の利益がないとされるおそれがあるため、「公法上の法律関係の確認訴訟」というだけでは救済には不十分ではないかと思われます。検討会の時点で提案された、法律関係「等」の確認という形にするか、日弁連委員が提案したように、処分性のない行政活動の違法確認訴訟を明文で規定することが望ましかったと思われます。いずれにしても、ここは実践の中で救済の拡大を図るしかない分野ですので、従来処分性がないと言われてきた分野で(たとえば交通違反の減点を争う)戦略的に確認訴訟を提起していくことが必要だと思われます。

6.処分の理由を明らかにする資料の提出

 行政訴訟に関しては、その証拠の大半は行政が保持しており、実質的な当事者対等(武器の対等)を実現するためには、行政の手持ち証拠を開示させる必要があります。しかし、手持ち証拠は聴聞手続を経た不利益処分でしか開示されない(もっともそのことすら知らない弁護士も多いかもしれませんが)。そこで、改正法は、民事訴訟の釈明処分の特則を設け、訴訟の早期の段階で、裁判所が行政庁に対して、処分又は裁決の内容、処分又は裁決の根拠となる法令の条項、処分又は裁決の原因となる事実その他処分又は裁決の理由を明らかにする資料(その中には審査請求記録も含まれます)の提出を求めることができるとの規定を設けることにしました。

 もっとも、この規定も義務的な規定ではありませんから、釈明処分をする必要がないとか、全部ではなく一部の提出しか求めないとか、それ以上の提出は訴訟関係を明瞭にするために必要ではないとか裁判所が言うことも予想されますし、行政庁の側も罰則がないから資料が存在するのに資料がないといって提出に応じないとか、処分の理由を明らかにするものではないからという理由で肝心の部分の資料提出を拒否するという事態が予想されます。釈明処分の規定が実効的に機能するかどうかは、やはり代理人・当事者次第(この種の処分の場合はこの種の資料があるはずだということを知っていないと、裁判所や行政庁を説得できません)ということになります。なお、この規定は、行政決定の適法性の主張立証責任を行政庁に課すことや、処分理由の差し替えの禁止を認めないことにした代わりの措置のように思われます。

7.被告適格の見直し

 従来、抗告訴訟の被告となるのは、処分や裁決をした行政庁(要するに、京都府という権利義務の帰属主体=当事者ではなく、京都府知事という当該処分や裁決をする権限を有する行政組織)であるとされてきました。そのため、行政の内部規定で知事の権限を部局長等に委任(この「委任」というのも、民事法上の委任概念とは異なります。民事法上の「委任」とは委任者に本来の権限を残したまま、第三者に権限を与えるものですが、行政法上の「委任」とは委任者の権限自体を委譲してしまうので、委任者にはその権限がなくなります)している場合は、知事を被告とした訴えは不適法として却下されることになりました。

 改正法では、その批判を受けて、抗告訴訟の被告となるものを、処分又は裁決をした行政庁の所属する国又は公共団体(国又は公共団体に所属しない場合は、従来どおり当該行政庁)となりました。

 しかし、これで訴訟が起こしやすくなるかというと、どうもそうとは限らないように思われます。というのは、当該行政庁が国又は公共団体に「所属する」かどうかの判断が必要となるからです。たとえば、京都府知事なら京都府に所属するとか、建築確認を建築主事がしたときは当該建築主事の所属する都道府県や市ということになるとかは分かりやすいですが、建築確認を指定確認検査機関が行う場合は、これはきっと公共団体に所属するとは言えないでしょう。では、建築確認処分に対して審査請求をしたときの審査庁たる建築審査会は公共団体に所属するのでしょうか。こうやって考えていくと、結局は、改正前とあまり変わらないような気がします。

8.抗告訴訟の管轄裁判所の拡大

 従来、抗告訴訟の管轄裁判所は、行政庁の所在地の裁判所とされていました。そのため、原爆病の認定を受けられなかった患者さんがその認定を争おうとすると厚生労働大臣の所在地である東京地裁に訴えを提起しなければなりませんでした。ところが、今回の改正で、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも訴えを提起できるものとされましたから、先の例で京都市に住所を有する患者さんの場合は大阪地裁に提訴することができることになりました。

 もっとも、その場合であっても、他の裁判所に事実上及び法律上同一の原因に基づいてされた処分に係る抗告訴訟が係属している場合は、同種の訴訟について判断の統一を図るため、同一の裁判所で審理を行うことを可能とするように新たな移送の規定が設けられたため、結局は、従来と同じ結果になるだけのように思われます。

9.出訴期間の延長

 現行法では処分があったことを知った日から3ヶ月以内に提訴をしなければならなかったのを、6ヶ月に延長し、さらに正当な理由があるときはそれよりも延長されます。もっとも、住民訴訟の出訴期間の「正当理由」の裁判例を見ていると、「正当理由」が認められるのは例外的な場合に限られると思われます。

10.教示

 行政庁が書面による処分をする際、その相手方に対し、当該処分に係る取消訴訟の被告、出訴期間及び不服審査前置の要否を教示しなければならないとの規定が新設されました。行政不服審査法の教示の制度を取り入れたものです。しかし、せっかく教示をするのであれば、被告は誰だというだけではなく、どこに提出すればよいのかも教示すべきだし、不服申立や訴えを提起するにはどんな書類を書けば良いのか等分からないことがあったときの相談窓口を教示するとかこそ、行政訴訟を分かりやすく、利用しやすくするために必要なことであろうと思われます。それをしないのであれば、あまり意味のある制度ではないでしょう。