(03/12/06)

行政訴訟の現場からY


産業廃棄物処理業不許可処分取消訴訟(判例地方自治244号65頁)埼玉の事例

 最近、廃掃法関係の事件を扱うことがあるので、ふと気になった事例を紹介する。

 産業廃棄物処理業の許可については、廃掃法に許可要件が法定されている。埼玉県の業者が産業廃棄物処理業許可申請をしたところ、業者は廃掃法7条3項4号ホ所定の「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に該当するとして、不許可処分を受けた。その理由は、@事業場を設置する予定の土地に知事の許可を要する焼却炉を知事の許可を得ずに設置した、A業者が近隣住民に対し、産業廃棄物処理施設の設置に反対し続ける限り、ダイオキシンの含まれた煙を毎日吸うことになる旨記載した通知書を送付したから、業者には的確な業務遂行を期待し得ないと認められるというのである。

埼玉県は、悪質な産廃業者が多いようであり、産廃処理施設関連のトラブルも多いことから、悪質「そうな」業者に対して業の許可を与えなかったことは、あながち不当とも思われないが、やや気になることがある。


 一つは、産廃業の許可は、営業許可であって、国民の職業選択の自由に対する規制であるから、許可不許可の裁量の余地は小さく、合理的で必要最小限度の規制であるべきである。ところが、まだ営業も開始していない者について、営業を開始した後の業務に関して「不正又は不誠実な行為をするおそれがある」かどうかの判断は将来的な予測判断であり、極めて困難ではないか、ひいては極めて主観的な判断に流れるおそれがあるのではないかと思われる。確かに悪質な業者が多く、一旦営業を開始させてしまえば、違法操業を差し止めるのは困難で、周辺の生活環境にも著しい支障を及ぼすおそれが大きく、危なそうな業者については事前規制が必要なことは否定しない。しかし、営業の自由に対する規制としては、不許可というのは一番厳しい規制であり、許可後の監督では足りないというだけの合理的な理由が必要であると言うべきである。そういう点から考えると、「不正又は不誠実な行為をするおそれがある」という要件は、あまりにも抽象的であるだけに、その判断をなるべく客観的合理的に行うような客観的合理的な基準が設定されなければならない。許可不許可にあたっての審査基準を設けるのは、行政手続法の要請でもある。

 それでは、埼玉県の審査基準はどうだったのか。法律雑誌の紹介記事には、埼玉県には「許可事務取扱要領」なる文書が存在することは指摘されているが、その条文の紹介がない。紹介されている判決文の中でも、「要領」が審査基準に当たるのかどうかの判示もなく、当事者がそれを争った形跡もない。しかも、判決文を見ても、@Aの事実が審査基準に該当するかどうかを判断することなく、いきなり法7条3項4号ホの要件に該当するかどうかを判断している。こういう判決の紹介を見ると、果たしてこの裁判所は行政手続法を理解しているのだろうかと不安になる。


 具体的に処分理由の判断について見てみよう。

 まず、@の事実だが、業者は、この焼却炉を設置したのは別業者だと主張していたが、裁判所は、業者の決算報告書からすると焼却炉の所有者は業者であること、通知書にも業者が焼却炉を設置すると明言していること、業者の代表者は名目的存在で、実質的代表者はその夫である設置者の代表者であることから、焼却炉を設置したのは業者であると認定した。まあ、社会常識に沿ったもっともな判断だとは思うが、焼却炉をリースして設置するものもいるのであって、設置者=所有者とは限らないし、妻が常に夫のダミーとも限らない(妻だから名目的代表者だというのは、女性蔑視も甚だしいだろう)し、通知書はこれから焼却炉を設置することの通知ではなく、付近住民の同意を取り付けるための脅かしなのだから、それを真に受けるのもどうかと思われる(それこそ、殺すぞという脅迫文が来た後に死んだ人がいたら脅迫者が犯人か、ということになる)から、もう少しつっこんだ判断が必要だったのではないかと思わる。

 次に、Aの事実についても、どうして業者がそのような通知を出したかというと、許可申請の事前協議の段階で県が周辺住民との間で公害防止協定を締結するように行政指導したところ、周辺住民がこれに応じないために、それにやきもきして脅かしの通知を出したのだった。脅かしの通知を出す業者もほめられたものではないが、廃掃法の許可要件でもない公害防止協定の締結をあたかも許可要件であるかのように指導したことにも原因がある。その行政指導に従わないことを理由に許可しないのだとしたら、それも行政手続法違反である。ところが、当事者も、裁判所も、その点については何らの検討もしていない。

 必要性の名のもとに法の定める手続が無視されることは、哀しいことである。行政一般にそのような傾向が見られるが、最近の自分の経験からすると、とりわけ廃棄物行政はその感が強いような気がしてならない。

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