行政訴訟の現場からX


神戸地裁姫路支部平成12年5月15日決定(判例地方自治211号91頁)


 
日本の行政訴訟制度のあまりにも機能不全に陥っていることをこれまで繰り返し紹介してきた。しかし、下級審の行政裁判例を見ていると、中には、全く法律を理解していないのではないかと思われるものがいくつもある(散見される程度ではない)。これは、「行政訴訟」という以前に、裁判の基本である法律の解釈の問題である。裁判官の頭は、「行政訴訟」を前にすると、全く思考停止になるようである。


 この事案は、相生市土地開発公社(土地開発公社と言えば、自治体の税金を使って無駄な土地を買い付け、塩漬け土地をいくつも抱え込んでいて、社会問題となっている。本件がそういう塩漬け土地に係るものであるかどうかは不明である)が相生市沖の海を埋め立てることを計画し、兵庫県知事から公有水面埋立免許を受けた。

 ところが、埋立予定水域の中にプレジャーボートが係留されていて、埋立工事の障害となっていた。そこで、公社がプレジャーボートの所有者に対してその撤去を求める民事保全法の仮処分を申請した。本件は、その仮処分異議申立事件で、撤去を求める仮処分を認めたものである。


 ところで、公有水面埋立(要するに海を埋め立てること)の手続は公有水面埋立法に定められている。

 海を埋め立てようとする者は、まず県知事から埋立免許を受け、それから埋立工事にかかる。埋立工事が終わると、県知事に対して竣工認可の申請をし、県知事はそれを良しとするときは竣工認可をし、この旨の告示をする。そして、竣工認可の告示があったときに、埋立をした者は、埋立地の所有権を取得する。それまでの間は、海は国の所有に属しているので、竣工認可があると、国は公有水面の公用廃止をする。

 この法制度を前提とするならば、埋立免許はあくまでも公物として国の所有に属する海を埋め立てる権限を付与するものにすぎず、埋立地となったことを認め所有権を創設する竣工認可手続とは切り離されているのであるから、埋立免許をもって私法上の公有水面埋立権が発生し、それに基づいて所有権に基づく妨害排除請求権と同様の妨害排除請求権が発生すると言うのは、どう考えても無理がある。

 埋立権とはいっても、それは海を埋立する「権限」というにすぎず、それは行政上の権限に過ぎず、私法上の「権利」としての埋立権とは異なると言うべきである。確かに埋立免許は一定の水域につき排他的な埋立権限を与えるものであるにもかかわらず、その水域に埋立工事の支障となる船舶が係留しているときは、その船舶を除去する必要があるだろう。しかし、それは公有水面埋立法に規定されている手続をとれば足りるのであって、裁判所を通じてであっても、民事保全上の保全処分を認める必要はない。公有水面埋立法は、そのための手段として、都道府県知事に対して工事施工区域内の工作物等の物件の除却命令の権限を付与した。法は、あえて埋立権者には妨害物の排除請求権を認めず、都道府県知事にその権限を付与したのであるから、そこからしても、埋立権者に私法上の妨害排除請求権が認められるいわれはない。

 本件においては、プレジャーボートの排除が結果的に妥当であったとしても、法の手続きに則って行われるべきであるし、いかに結果がよくても法の手続きに則っていなければ違法であると言うべきである。本件においては、県知事がプレジャーボートの排除請求を行うべきであって、公社が直接請求することは認められないと言うべきである。

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