(03/12/6)

私と行政訴訟との関わりV


県職員昇格差別事件

 公務員であれ、民間であれ、同期入庁者の間でも、いつの間にか出世に差がつき、退職するときに、ある者は部長にまでなり、ある者は出先の課長どまりで退職することがよくある。そのときに、出先の課長どまりにしかなれなかった者が自分をもっと上位の職につけろと請求したり、本来就くべきであった上位の職との給料差額を損害賠償として求めることができるのだろうか。組合差別や思想信条による差別として集団的に「差別」が把握できる事件については幾つか訴訟になっているが、個別職員については訴訟にはなっていない。人事の秘密とか、昇任昇格昇級は任命権者の裁量だと言われてしまって、人事がブラックボックスの中に入っているからであろう。

 しかし、これはおかしいのではないか。私は、行政と市民との関係は、法的対話のルールによって運営されるべきだと考えている。このルールは、行政内部においても適用されるべきであり、任命権者と職員とは法的対話の下で人事を行うべきである。九州のK市では、女性職員が大学院に社会人入学して勉強するのがけしからんということで、監査委員事務局から住民課の第一線に配置換えし、さらには動物園に配置換えした。それも、一方的に。このように露骨なケースはまだ分かりやすい。ここで取り上げるのは、もっと一般的なケース。土木部採用の技師が本庁に戻してもらえず(たまに本庁に戻してもらえても、観光課)、ずっと出先機関に回されたケースである。

 県職員その他地方公務員の昇任昇格昇給はどのように規律されているのだろうか。

 地方公務員法の教科書を見ていても、よく分からない。一般に給料表は、横の列に「職務の級」が1級から11級まであり、縦の行に「号給」が1号給から31号給くらいまであって、主査から課長補佐になるように上位の職に任用することが「昇任」、職務の級を上位に変更することが「昇格」、号給を上位に変更することを「昇給」と呼んでいる。「昇任」というのは任用上の概念、「昇格・昇給」は給与決定上の概念とされている。この辺のところは、正直言って私自身整理し切れておらず、ようやく訴訟の終盤で分かってきたというのが正直なところだ。地方公務員法は、給料表や昇給の基準に関する事項を条例で定めることを求めていて、昇任や昇格の基準を定めろとは規定していないが、昇給の基準の中に昇格の基準も含まれると読むのだろう。

 それを受けて、給与条例では12ヶ月を下らない期間を良好な成績で勤務したときは1号給上位の号給に昇給させるとあり、昇格規則ではその職務の級について級別資格基準表に定める必要経験年数または必要在級年数を有していることという基準が設けられている。しかし、現実の昇格、昇給は、それだけの基準では運用されていない。実際の昇格、昇給の基準は何か。それとも、県の人事には基準というものは存在しないのか。事実、県は、人事は任命権者の自由裁量の一点張りだ。

 しかし、昇任・昇格・昇給は、公務員にとって極めて重要なことであるから、実体的要件と手続的要件による規制があると考えるべきだ。

 実体的要件としては、平等取扱原則と基準が必要であり、手続的要件としては、公正・透明な手続が必要であると言うべきだ。実体的要件としての基準としては、県には級別資格基準表の他に、「行政職給料表適用職員の昇格等の運用基準」という基準が存在するらしいが、県は公正かつ円滑な人事管理の確保に支障を及ぼすおそれがあるという理由で提出を拒否する。しかし、次に述べるようにそもそも「運用基準」は存在していないのではないか。そうすると、昇格は級別資格基準表のみに基づいて昇格をさせるか、それでなければ、その他に客観的な基準が設けられるべきである。また、手続的要件としては、評価の適正を担保するために少なくとも評価に対する当該職員のアクセス(本人開示)と是正の手段(事前手続・不服申立手続)が必要であると言うべきだ。


 県の土木部総括技監の証人尋問を行った。県の人事の実態が明らかになった。

 土木部の人事は、事実上総括技監の判断で決定されるが、主査級以下の人事については管理課が事実上決定し、課長補佐級以上の人事を総括技幹が行う。学歴、経験、資質、能力、適性、勤務成績、職務遂行能力、職務に対する熱意を総合的に判断して人事を決定すると言うが、そこには基準はないばかりか、その判断も所属長と管理課長と総括技監の主観的評価や総括技監が個人的に収集した情報に基づくものにすぎず、過去の人事評価資料もなく、そろそろ課長補佐級にして良いかな、そろそろ課長級にしていいかなというところで決定されていく。それでいて、主観的評価ではなく、適正な評価だという。何故かというと、毎年評価者はそれぞれ変わっていくから、適正でなければ是正されていくからだという。この論理のおかしさ、恐ろしさに何も気づいていないところが一層恐ろしい。職員の客観的な評価ではなく、組織から見た好き嫌いで人事が行われるのだ。

 しかも、「行政職給料表適用職員の昇格等の運用基準」というものは見たこともないというから、これを県が提出しないのは「公正かつ円滑な人事管理の確保に支障を及ぼすおそれがある」からではなく、そもそも人前に出せるような代物ではなく、現実に基準としては運用されていないからだろう。


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