(04/6/7)

許可取消処分取消判決紹介(福井地裁H14行ウ4号)


 廃掃法実務の中でも画期的な判決らしい(私の拙いHPをご覧になって、お問い合わせもいただいた)ので、以下に詳細に紹介をしておきたい。

 なお、福井県(旧栗田県政)は「環境立県」と銘打って対外的に宣伝していたが、「環境立県」の実態は以下のようなものであり、甚だ不快である。これは、県が敦賀のキンキクリーンセンター事件(豊島を上回る廃棄物の不法投棄が、県による処理施設の無許可変更の黙認の結果行われた。しかも、県は問題が発覚してからも処分業者には数年後の閉鎖を指導しながら、その直後、環境省から是正指導を受けて、処分業者に対する指導を撤回した)の失態を挽回すべく廃掃法を厳格に執行していることを世間にアピールしようとして行った第1号の許可取消事案であった。そのため、文句を言いそうにない零細処理業者を狙って、処分発表を事前にマスコミにリークしながら、大々的に廃掃法の厳格執行を報道した。しかし、その中身は極めてずさんな廃掃法の解釈運用であった。

 福井県のこのような廃棄物処理行政な直ちに改められるべきであり、またこのような違法な廃棄物処理行政の被害者となった有限会社林商店(旧金津町)の信用は速やかに回復されるべきである。それだけに、地裁判決の後も依然として違法行政を認めず、控訴審において徒らに争う福井県の姿勢は、断固として非難されるべきである。

争点1 再委託基準違反の再委託が認められるか

県の処分理由 「収運業者Xは、事業者Aと収集運搬の委託契約を締結しており、当該委託に係る廃棄物を、事業者と焼却処分の委託契約を締結している中間処理業者Cまで運搬すべきところ、Yに運搬し、Yに処分を委託したから、廃掃法14条10項に違反する。」

廃掃法14条10項は、「収運業者又は処分業者は、産業廃棄物の収集若しくは運搬又は処分を他人に委託してはならない。」と定めている。

県の主張 事業者と中間処理業者Cとの間には処分委託契約が成立しており、事業者と収運業者Xとの間にはCまで廃棄物を収運する旨の運搬委託契約が成立しているのに、XがYに廃棄物を運搬するのは再委託にあたる。

業者の主張 県の主張する内容の契約書は作成されているが、契約書が作成されているだけで、AにはCに処分を委託する意思もないし、XにCまで運搬を委託する意思もない。契約書には産業廃棄物の種類も数量も処分場所の所在地も処分方法も運搬最終目的地の所在地も何の記載もなく法定記載事項のほとんどが記載されていないから、契約の成立を認めることはできない。

県の反論 委託契約内容は書面で行うことが法で要求されているから、契約書が作成されているのに契約が成立していないと主張することは許されない。契約書には廃棄物処理業許可証が添付されていたから、それが契約内容を補充する。

地裁判決 契約書には法定必要的記載事項が記載されておらず、委託契約の基本的内容すら明らかでない。収運業者は委託契約書作成の約1年半前から廃棄物をYに運搬しており、収運業者はその旨のマニフェストを事業者に交付していることから、事業者も契約書作成時にはYに廃棄物を運搬していたことを認識していたと考えられるし、事業者はその後も搬出先がC以外の者になっているマニフェストの交付を受けながら異議を述べた形跡がない。したがって、事業者と収運業者との間で廃棄物をCまで運搬する旨の委託契約が締結されたとはみられないから、再委託の事実は認められない。

争点1は、単純な「契約の成立」の有無の問題であるが、県は廃掃法が書面主義を採用していることを不当に重視して、契約書の存在に目を奪われてしまった。県職員が行政法規しか知らず、民法及び事実認定の基礎的素養を欠落していたがために生じた違法処分であった。ところが、県はいまだに控訴審で同じ主張を繰り返している。こんなことは、代理人弁護士や県の顧問弁護士がしっかり指導してやるべき事柄ではないのか。どうしてこんな法的素養のなさによる負担を業者が負わねばならないのか。


争点2 虚偽マニフェストについての収運業者の関与が廃掃法12条の3第2項前段、14条の3第1号の「唆し」に該当するか

県の処分理由 「収運業者Xは、平成11年春ころから平成13年12月ころまで事業者Aの産業廃棄物は全てYに搬入するなど処分委託を継続する一方で、平成13年5月頃、C代表者に対し、Aとの処分委託契約及びマニフェストの処分欄への社名印の押印を有償で依頼し、Cでは実績がないにもかかわらず、同社が焼却処分したとする虚偽マニフェストをAに送付したから、廃掃法14条の3第1号に該当するとともに、同法12条の3第2項前段に違反する。」

県の主張 収運業者XはCに虚偽マニフェストの作成を依頼しているが、これは廃掃法14条の3第1号の唆しに該当する。また、虚偽マニフェストを事業者Aに送付したことは廃掃法12条の3第2項前段に違反する。

業者の主張 この争点は、争点1が民法と事実認定の問題であったのに対して、法規の解釈の問題である。県の処分理由は長々と記載されているが、要は何が法12条の3第2項前段に違反するのか、何が法14条の3第1号に違反するのかが県の中でも明瞭になっていないから、処分理由が長々と記載されている。

県の処分理由には、2つのことが記載されている。法12条の3第2項前段違反と、法14条の3第1号違反だ。

まずは、法12条の3第2項前段違反。実は、県の処分理由は条文の摘示がまず間違っている。それが法規の解釈の誤りにもつながっている。本件は業許可取消処分であるが、県の処分基準によると、法12条の3第2項前段違反が処分事由ではなく、「法29条に列挙された違反行為」が処分事由にあたる。条文を掲げてみる。

法12条の3第2項前段 「運搬受託者は、当該運搬を終了したときは、前項の規定により交付された管理票に廃掃法施行規則8条の22で定める事項(本件では、運搬を担当した者の氏名、運搬を終了した年月日)を記載し、廃掃法施行規則8条の23で定める期間(運搬を終了した日から10日)内に、管理票交付者に当該管理票の写しを送付しなければならない。」

法29条2号 「第12条の3第2項前段の規定に違反して、管理票の写しを交付せず、又は同項前段に規定する事項を記載せず、若しくは虚偽の記載をして管理票の写しを送付した者」

両方の条文をまとめて読み込むと、法29条2号は「運搬受託者が当該運搬を終了したにもかかわらず、廃掃法施行規則8条の23で定める期間(運搬を終了した日から10日)内に、前項の規定により交付された管理票に廃掃法施行規則8条の22で定める事項(本件では、運搬を担当した者の氏名、運搬を終了した年月日)を記載したものの写しを管理票交付者に交付せず、又は当該事項を記載せず、若しくは当該事項につき虚偽の記載をして管理票交付者に当該管理票の写しを送付した者」を指す。

したがって、法29条2号のうち虚偽管理票写し送付行為に該当するものは、当該運搬を終了した運搬受託者であって、かつ、廃掃法施行規則8条の22で定める事項(本件では、運搬を担当した者の氏名、運搬を終了した年月日)につき虚偽の記載をしたものに限られる。ところが、収運業者はCまで廃棄物を運搬する旨の委託契約を締結したものではないばかりか、Cまで廃棄物を運搬したものではないから(ちなみに、Xが記載すべき運搬担当者の氏名及び運搬を終了した年月日自体はいずれも事実を記載している)から、Xの行為は何ら虚偽管理票写し送付行為に該当するものではない。

県の条文解釈の誤りは、法29条2号に規定されている「虚偽の記載」をマニフェストにおける虚偽記載すべてを指すと誤解したことにある。条文は、「同項前段に規定する事項を虚偽の記載をした」と規定されているから、県は条文解釈のイロハを誤ったことになる。そもそも県は、XがCまで廃棄物を運搬していないにもかかわらず、Cを運搬先と記載したマニフェストをAに送付したことを違法視しているが、処分受託者の住所(規則8条の21第5号)や運搬先の事業場の名称・住所地(同第6号)をマニフェストに記載すべき義務を負っているのは排出事業者Aであって(法12条の3第1項、規則8条の21)、収運業者ではない。

次に、法14条の3第1号 「違反行為をしたとき、又は他人に対して違反行為をすることを要求し、依頼し、若しくは唆し、若しくは他人が違反行為をすることを助けたとき」

県は「唆し」に当たると言うが、XがCに対してどんな違反行為を唆したというのかが全く特定されていない。そればかりか、現実にCが受けた処分の理由は、「Xが法12条の3第2項の規定に違反するのを容易ならしめた」ことを理由とするものであるから、Xが処分されるのは「幇助犯の教唆」ということになり、正犯なき共犯を処罰するのか。

地裁判決 法12条の3第2項前段は、産業廃棄物の運搬を受託した者は、当該運搬を終了したときは、同条1項の規定により交付されたマニフェストに政令で定める事項を記載し、政令で定める期間内に、マニフェストを交付した者に当該マニフェストの写しを送付しなければならないものと規定したものであり、内容虚偽のマニフェストを作成してはならないという規定ではないし、XはAからCまで運搬することを受託しておらず、Cに運搬するとの処理を終了したことはないから、同項前段に違反したとみることはできず、それを前提とした法14条の3第1号の「唆し」は成立しない。


争点3 本件処分は県処分基準に照らして比例原則に違反し、または他事考慮があって、裁量の逸脱濫用として違法となるか


争点4 県の報告徴収手続は法の許容する範囲を逸脱した違法なものであるか

業者の主張 県廃対課職員Fは県警の出向職員であるところ、X代表者を保健所に呼び出し、深夜11時頃まで取り調べ、X代表者が返答に窮したり、正確に答えようとして言葉を詰まらせたりすると、いきなり目の前で机を乱暴に叩いて威嚇恫喝し、「ここは保健所だからお前のような奴にさん付で呼んでやっているんだ。ありがたく思え。」等と語気鋭く申し向け、またX代表者に口授して事実てん末書を筆記させた際、「これぐらいの文章を書くのにこんなに手間取るのはお前ら一族だけだ」等と人格を否定するような言葉で罵った。そもそも法には質問検査権は規定されておらず、そのため業者から任意の事実てん末書を作成提出させるのが実務であるが、本件では、警察における「取調」まがいのことが行われ、事実てんまつ書というのも職員が口頭で口授してそれを筆記させるだけの、いわば警察の取調における供述書と同じことが行われており、それは法の許容する報告徴収の権限を著しく逸脱したものであって違法である。

地裁判決 法18条は、「都道府県知事又は市町村長は、この法律の施行に必要な限度において、収運業者等に対し、廃棄物の保管、収集、運搬若しくは処分又は一般廃棄物処理施設若しくは産業廃棄物処理施設の構造若しくは維持管理に関し、必要な報告を求めることができる。」と規定し、法30条5号において、18条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者に罰金を科すと規定しているが、都道府県知事に質問権や強制的な調査権を認めた規定はない。

したがって、法18条は、あくまで任意による報告を求める手続であって、報告を受けるために当然必要となる限度での担当職員の質問は許容されるものの、運搬業者等が報告を拒んだり、その報告内容に不審点があった場合には、罰則が科せられることがあり得ると説明するなどして説得するほかはなく、取調を行うことはできないと解される。しかしながら、担当職員らが法18条で許容される限度を超えた態様で質問をしたとしても、直ちに国会賠償法上違法であるとみることはできず、その違法行為の内容・程度を考慮し、国又は地方公共団体に損害賠償義務を負担せしめるだけの実質的理由が必要と解される。

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