サム・ホーソーン医師の診断書(その4)

(エドワード・D・ホック『サム・ホーソーンの事件簿4』解説)

サム・ホーソーンの事件簿4  本書の主人公サム・ホーソーン医師と作者エドワード・D・ホックについて詳しいことを知りたい方は、『サム・ホーソーンの事件簿I』に寄せられたホックの「序文」と「サム・ホーソーン医師の略歴」とマーヴィン・ラックマンの「事件年表」、そして、ホックのノンシリーズ短編集『夜はわが友』(いずれも創元推理文庫)に添えられたフランシス・M・ネヴィンズの「序文」を読んでいただきたい。

 本書は日本で独自に編纂されたサム・ホーソーンもの第四短編集である。本書では、三十七編目から四十八編目までを並べた。日本で二〇〇四年に訳出された第三短編集のほうは、『IN☆POCKET』(講談社文庫)主催の作家が選ぶ文庫翻訳ミステリーの部で第二位に、『2005本格ミステリー・ベスト10』(原書房)の海外部門で第二位に輝き、第一、第二短編集と同様に、多くの実作者の方々に称賛していただいた(とこの解説子は御神酒も飲まずに、前回とほとんど同じ言葉で読者の皆様に説明を始めた)。

 本書には、いつもどおりホーソーンもの十二編のほかに、西部探偵ベン・スノウもの短編「フロンティア・ストリート」をボーナス作品として併録した。ボーナス作品を選ぶのに、いつも楽しい苦労をする。訳者の第一希望だった「黄昏の阪神タイガース」(『新本格猛虎会の冒険』東京創元社)は承認されなかったので、編集担当者といろいろと検討した結果、本書収録の「呪われたティピー」に登場する共演者スノウが主役を張る作品がいいだろうということになった。ホックは密室を扱った秀作を選んだのだが、スノウの人物紹介も兼ねた実質的な一編目である別の秀作「フロンティア・ストリート」(密室ものではない)を訳者は選んだ。スノウについては、前出のネヴィンズが書いた「序文」(『夜はわが友』収録)でも詳しく紹介されている。

「フロンティア・ストリート」は《ザ・セイント・ミステリー・マガジン》(SMM)のイギリス版一九六一年五月号に初めて発表され、アメリカ版の六二年二月号に“再録”された(アメリカ版はイギリス版より半年ほど遅かった)。そして、九七年刊のスノウもの短編集 The Ripper of Storyville and Other Ben Snow Tales に収められた。発表順としてはSMMイギリス版六一年三月号掲載の The Valley of Arrows のほうが二カ月早いのだが、執筆順としては「フロンティア〜」のほうが一編目である。じつのところ、ホックは六〇年後半にその二編を同時にSMMの編集長ハンス・ステファン・サンテッスンに渡したのだが、二編目の Valley のほうが先に発表されてしまったのだ。

 スノウものは本書収録の二編のほか、「ストーリーヴィルのリッパー」(『ホックと13人の仲間たち』ハヤカワ・ミステリ)、「ライト兄弟殺人事件」(EQ八四年八月号)、「鐘声」(EQ九八年七月号)、「拳銃使いのハネムーン」(『ミステリマガジン』〇五年一月号)が訳出されている。「拳銃使い〜」で記されているように、二十世紀にはいってから、スノウはタミア・ポンターと結婚し、ヴァージニア州リッチモンドで警備会社を設立した。

「フロンティア・ストリート」の時代設定は本文に記されていないが、ラックマンの「ベン・スノウ略歴」によると、一八九一年の冬となっている。九年前のニュー・メキシコでの事件がビリー・ザ・キッドの“死亡事件”を暗に示唆しているので、ビリーの“没年”である一八八一年から計算したのだろう。スノウものとホーソーンものは、年代こそ違うものの、どちらも時代設定を過去に置いているところは似ている。著しく異なる点は、スノウものが年代順に執筆及び発表されていないことだ。だから、スノウは年代を往復しながら、西部の町で活躍するのである。

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 それでは、サム・ホーソーン医師の事件年表を更新しておこう。
[註=完全チェックリストを見たい方は、現物の巻末を参照してください。]

二〇〇五年十二月



これは木村二郎名義で翻訳したエドワード・D・ホックの『サム・ホーソーンの事件簿4』(創元推理文庫、2006年1月刊、940円+税)の巻末解説であり、自称研究家の木村仁良が書いている。続編『サム・ホーソーンの事件簿5』が無事に出せるように、皆様方の盛大なご声援をお願いします。(ジロリンタン、2006年1月吉日)

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