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「 僕のカタマリ・その弐 」





僕のカタマリが

溜め池に落っこちていた

何となく哀れになったから

腰まで濡れて引っ張り上げた



僕のカタマリを

庭先に飾ってみることにした

雨露を防ぐために大きな栗の木の下に飾る

ちょっと寂しいから電球を付けてみた



僕のカタマリの

すぐ上の枝に住むウグイスやリス達は

僕のカタマリをトイレとして愛用しているらしかった

洗いながら、よくよく眺めてみると、なるほど、そんな形をしている



僕のカタマリに

触れないまま眺めている友達と殴り合った

殴り合って初めて知った彼のストレート・ライン

僕と彼は僕のカタマリの前でいつまでも語り合っていた



僕のカタマリと

そんなに変わらない形をした隣の庭の置き石は時価数千万円もするのだそうだ

すり替えてみたけれどいっこうにばれる様子もないので取り返してきた

なんだな、やっぱり僕のカタマリの方が僕の庭にはピンとくるな



僕のカタマリへ

いろいろと話しかけてくれる優しい女性がいる

彼女は僕のカタマリを抱きしめたり蹴っ飛ばしたりしながら

いつも庭の中をクルクルと回って楽しそうにしてくれる



僕のカタマリも

僕にわからないところでいろいろ苦労するらしい

一番の苦手は小便をひっかけたりギャンギャンと吠え立てる向かいの家の飼い犬

何の悪気もないんだ、いい奴なんだと、僕のカタマリは難しい顔をした



僕のカタマリで

踏み潰されたはずのタンポポが

どこをどう曲がりくねったのかまた生えてきた

何だか僕のカタマリを泣いてみたくなった



僕のカタマリや

それに付随する様々な出来事に疲れ果てて

ある夜、僕のカタマリを捨てにいって、けれどもそのまま持ち帰った

それから念入りに磨いて、僕のカタマリにもたれて眠った



僕のカタマリは

そろそろ苔が生えて庭の風景に馴染んできた

観覧料は取らないけれど必ず触ってもらうことに決めている

苔の生えた汚らしい僕のカタマリに触れる人は少ない



ある日ふと思い立って

僕のカタマリを粉々に砕いて庭に埋めてみた

それ以来ずうっと栗の木もタンポポも元気にやっている

しかし新しいものはまだ何も生えてこないのである


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