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「 哲 人 」





ああ、哲学をする人よ、

あなたたちは人類の最後の希望なのです。

だからこそ、尊いあなたたちよ、

生活を笑うことなかれ。

知性の迷妄に堕ちることなかれ。

批判精神の誘惑に誑かされることなかれ。

あなたたちが切り捨てようとするもの、

その中にどれほどの生き物が詰まっているか。

哲学の庭に錆のすえた匂いは、相応しくないのです。

どうか温かなスープのような生活感を、第一として欲しい。

あなたたちは言葉を口にするとき、

三度飲み込まなければなりません。

一度目には相手の顔を、

二度目には相手の暮らしを、

三度目には自分自身の顔を思い、

最後に声を選んで語り始めるのです。

あなたたちよ、その尊い言葉を生活の中で証明しなさい。

あなたたちよ、自分自身の尊さを生活の中で証明しなさい。

あなたたちの無責任と無自覚が、

どれほど哲学をおとしめているでしょう。

豊かな社会に溢れかえっている、知識だけしか持たぬ人々。

彼らは善良だけれども、単なる雑学者でしかありません。

哲学をするあなたたちは、雑学者であってはならない。

あなたたちの言葉は行動を創り、生活を創るのです。

雑学的考察と無責任な批判精神を哲学と呼ぶ学者。

哲学を高級なおもちゃのようにもてあそぶ若者。

容易に低級な哲学に溺れていく様を見るたび、

こう言わざるを得ないようにさえ思えるのです、

雑学的哲学こそが人類にとっての阿片である、と。

ああ、哲学をする人よ、

もう一度心に刻んで欲しい。

あなたたちは人類の最後の希望なのです。

生命が築き上げた希望の砦なのです。

だからこそ、尊いあなたたちよ、

言葉には命をかけて下さい。

そして生活の匂いを抱きしめて下さい。

喜びや悲しみや、恋をする心を、輝かせて下さい。

活き活きとした哲学を、どうか子供達に見せてあげて下さい。


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