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「 愛の仮説 」





一昨年の夏

覚えているだろうか

僕たちは出会っていたけれど

まだ

お互いがお互いにとって

なにものでもなくて

ただ

少しずつ重なり始めた時間を

楽しみにするようになっていった



春の嵐

彗星の夜に僕たちは

確かにお互いの一部分となった

それなのに

愛はまだ僕たちの外側で

無言のうちに感じると思いこんでいたものは

現実の波に洗われる砂の尖塔のようで

君から贈られた愛の第一仮説を

僕がギュッと抱きしめた



雨音に閉ざされて

僕たちの曖昧さをあざ笑うかのように

何もかもが幸せの光に浮かぶ影

試みられるには幼すぎる

僕たちの銀河系が

証言台に引っぱり出されて

今度は僕が愛の第二仮説を君に贈る

それを両手にとってホッとしたような君の笑顔に

第一の仮説を証明できたことを僕は知った



君は旅立ち

そして一年が過ぎて

僕も

そしてきっと君も

それぞれの中にお互いでないものを増やしながら

だんだん小さくなっていく相手の存在を感じる

だけどそれは小さくなるに従って輝きを増す

僕たちの愛の第二仮説は

まだ壮大な実験の途中を彷徨っている



余計な錯覚を取り除いて

ただ僕にとっての君の意味と

君にとっての僕の意味を見つめる

この愛を

純粋化していく

全ての現実の中でさえ

消えない輝きを磨き出すため

ただ実験室の中はいつも薄暗く寒い

きっとそのことだけは君も同じに違いない


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