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《 ヴェスタリオミア物語 序章 》

Story and picture by Kobashiri

 

もしもこの世が作り物で

あなたも私も作り物で

あの朝明けの輝きも

走り回る動物たちの砂埃も

シンシンと泣く樹々の湿り気も

頬寄せる子供たちの安らぎも

寄せては返す海の言の葉も

限りない空の思い捨ても

みんなみんな、張りぼてだったら

あなたと私が交わしている喜びや悲しみや

人と人とが擦り合わせる微笑みや涙や

学んだことや考えたことや感じたことさえ

みんなみんな、嘘になってしまうのでしょうか



あなたが愛し

私が愛するものたちは

どこかの誰かが見た夢の最果て

生き物も生きない物も画板の上であって

あなたと私が造形であったとしても

二人は命を使って生きています

取り合う手の微かな震えを

二人は恋しているから

物も思わぬ神様の手をふりほどいて

あなたと私の体温が流れ続けます

あなたに伝わる私の鼓動

私に寄り添うあなたの重み

それが全てだと信じています



長い長い夢の間

宇宙を流れる銀の船

再びこの目を開けたとき

きっと、あなたはそばにいて

優しく微笑むことでしょう

だから、今は目を閉じて

静かに夢をたどります

人が死んだり生まれたり

願い事を叶えたり破れたり

愛し合ったり裏切り合ったり

大地と海と空の中で

たくさんの命がクルクルと回る

楽しくて切なくて、遙かな遙かなこの物語



どんなときも信じていたいよ

覚えているあの日の輝き

疑いは心の嘘だよね

そう言って泣いていた私の

涙の粒を抱きしめてあげたいから

せめてこの夢の中で

時計の針を戻しましょう

あの日、あの時、あの場所に

やり直すことは、できないけれど

神様の画板の上に生まれ落ちた

大切な日々を思い出しながら

散っていった星屑と、生き続ける惑星の鼓動を

愛しい人たちの記憶を、私は確かめるのです




作・ 小走り

EMAIL:kobashi@nsknet.or.jp
http://hideo.com/kobashi/



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