雑記帖 - 旅日記

No.7
2004初夏~吉野 その2「聖地詣で」
絵:女将さんは天女様
女将さんは天女様

今回お世話になった吉野山の旅館「歌藤」さんは、地元の吉野杉を640本使って建てたログハウスの宿。旅館を1年間休業し、家族総出で作りあげた。建物の中に入ると、木の香りが一杯で、床を踏む足の裏の感触が、さらっとして実に気持ちいい。ヒノキのお風呂(洗い場が木造になれば言うことなし)にゆっくり浸かり、吹き抜けの全面ガラスばりになったログホールでくつろげば、ガラスの向こうには、ライトアップされた吉野山最大級のしだれ桜の枝振りが見渡せる。そのダイナミックな発想には、ただびっくり。

たった一人で、すべての丸太の皮むきをしたという女将さんは、よほど肝の据わった逞しい人かと思うのだが、実際には、まるで弁財天のように柔和な笑顔が素敵な方。ログハウス作りがきっかけとなって、すっかり普請にのめり込んでしまったご主人や息子さん、家を建てるときに大工さんとして来て、そのまま旅館で働くようになったという誠実な従業員さん、吉野を愛する人達の働きぶりや生き方に心打たれるものあり。

吉野山は両側が深い谷になっており、霧につつまれたその景色はそのまま墨絵の世界。ふと、昔訪ねたことのあるフランスのヴェズレーを思い出した。丘の上にある小さな町で、しょっちゅう霧に包まれていることや、中心となる聖マドレーヌ寺院はかつて巡礼の拠点であったことなど共通点が多い。そうそう、ヴェズレーはすでに世界遺産となっているが、吉野山も「紀伊山地の霊場と参詣道」として、今年、世界遺産に登録される予定であるとか。

さて翌朝、5時半に起きたと・ぺこ・ぽこは、にわか修験者となり、前夜、宿の人に教えて頂いた「蔵王権現」金峰山寺の朝の読経に参加した。蔵王堂の中に響き渡る太鼓の音がずんずんとお腹を振るわせ、ホラ貝、木魚、鐘の音、そして読経が唱和する御堂の朝のひととき。いつしか、お釈迦様か、千手観音か、弥勒菩薩の生まれ変わりになったような有難い心持ちに。前方で熱心に祈るおばさんのその背に背負ってきたものは何だろう。

朝風呂に入ってからご飯を食べる。白飯、味噌汁、湯豆腐、出汁巻き玉子、鮎の飴煮、小鉢が3品(キヌサヤの煮浸し、菠薐草のごま和え、山クラゲ)、海苔、梅干し、漬物、塩昆布。食後には、向いのログハウス茶房で、桜アイスと葛湯で一服してから、さあ出発。宿を後にした一行は、つづいて二上山の麓にある當麻寺(たいまでら)門前の蕎麦屋「稜(そば)」を目指す。やや早めに到着したため、まずは當麻寺参詣へ。帰ってきてから、わかったことだが、大好きなアニメーション作家川本喜八郎氏が現在製作中の最新作「死者の書」の舞台となっているのが、この當麻寺周辺なのであった。

「稜(そば)」の蕎麦は、タレが辛目で、蕎麦はやや香りにかけるか。お腹を満たしてから、門前町を買い物しながらぶらぶら歩く。昨日からやけに目につく看板は、腹痛に効く丸薬「陀羅尼助丸(だらにすけ)」。修行僧が眠気覚ましに用いたという薬草からなる丸薬が、科学の時代になっても愛されているのがなんとも可笑しい。世の中まだまだ知らないことが多い。でもって、これまた帰ってきてから、意外と愛好者の多いことを知って、2度目の吃驚。珍しく、陽のあるうちに帰ってきた富山組3名の〆は、インター降りてすぐのところにある「すし貫」のお寿司でした。うまかった。

Highslide JS
吉野山はまるで墨絵の世界
(金峰山寺にて / 2004-5-23 / ト)
Highslide JS
「せいろ」は緑色のお蕎麦でした
(「稜」にて / 2004-5-23 / ト)

文 ぺこ・ぽこ 絵 ぽこ

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